第八章 ナイショ話

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第八章 ナイショ話

ようやく翔喜の指名客が現れ、彼が席を立つ。 ハルカさんとアキヒトは同時に深呼吸した。 弾丸のようなトークに疲れを隠せない。 「あの人、本当にナンバー1なんですか?」 アキヒトはヘルプについてくれた若くておとなしそうなホストに こっそり聞いてみた。 口数は多くないが、顔立ちは綺麗だし 料理が趣味とのことでアキヒトとも話があう。 麗樹(レイジュ)という名だった。 「一応、ね。」 小さい声で本人には聞こえないようにレイジュは言った。 「あの人、オラオラ系だからいつもは全然違うで。 ハルカ姫の前だとデレてるけど。」 今日は珍しいものを見せてもらったと言いながら、 レイジュはクスクスと笑っていた。 「オラオラ系って?」 「なんて言うのかな?強気に出て気の弱そうな子にボトル入れさせるの。 売り上げ足らんときは、何人も太い客呼ばれてるよ。」 強気で営業に出る事を「オラオラ系」と言うらしい。 ちなみに太い客というのはデブではなく、 お金を沢山落としてくれる客のことらしい。 太い客の中でも、最もお金を落としてくれる上客の事をエースと言うのだとか。 知らない事だらけで、アキヒトは感心する事しきりだった。 「へえ。ボトルっていくらするの?」 「下は15000円くらい、上は今200万のがあるかな。」 「200万!!!」 声が大きくなって、アキヒトは周りを見回す。 ボトル1本200万円の酒って! 「多分普通にネットとかで買えば20万くらいの酒やで。 イイ酒を入れてくれたときは俺らがコールするんやけど、 その時間は担当のホストが貸切になるから その価格込みの値段やねん。」 “人件費が酒の9倍かよ。” ビビるアキヒトにレイジュが近づいてきた。 「アッキーくんだっけ?キミ顔もいいし、トークも上手いし よく気が付くからホストに向いてるよ。 うちの店に来たら美容師の10倍は稼げるで。」 にっこりと笑って言われる。 確かに髪を切らないだけで、接客業だし 美容師と共通項は多そうだと感心しながら聞いていると、 「アッキーはダメよ。」 ハルカさんに耳を引っ張られた。 「アッキーかて今の調子で頑張れば給料10倍も夢やないで。 安易な道に流されたらアカン。」 本気で怒ってるのか冗談かは分からないが、引き止められて良かった。 貧乏なので金の誘惑は怖いのだ。 「ハルカ姫聞いてたん?」 レイジュが言う。 「うちの新人スカウトするのはやめてや。困るんやけど。」 「ごめんごめん、アッキーくん気が向いたらどうぞ。」 強引に渡され、レイジュ君の名刺をもらってしまう。 「絶対に、アカンからな!」 ハルカさんがそんなアキヒトとレイジュを怖い顔でにらんだ。
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