第十一章 特別扱い その2

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第十一章 特別扱い その2

準備が出来て、スポットがシャンパングラスの山に当たる。 翔喜がマイクを片手にコールの準備を始めだした。 帆菜は遠くなる意識の中、それを見守っている。 と、そこで彼が放った言葉に彼女は耳を疑った。 「はい皆さん、今日はこちらにいらっしゃる ハルカ姫の満を持してのご来店に感謝して、 俺様、翔喜様がシャンパンタワーをお見せするぜ。 いつも来てくれるみんなに感謝と愛をこめて振舞うから、 この珍事に立ち会ったみんな、是非飲んでいってくれ!」 “は?” 何を言ってるのか分からないんだけど。 と、帆菜が目を丸くしていると あの女の手を引いて、翔喜がスポットの下へと向かった。 二人は今日の主役に見える。 もう5年になるだろうか。 長く翔喜の客をやっていて、 翔喜が他の客と枕営業をしている事も(帆菜はしてもらえていない) 日替わりでキャバの女と寝ている事も(帆菜は寝てもらえない) 知っていたけれど 今日ほど不愉快な気持ちになったことは無かった。 ・・・・・・納得がいかない。 「ねえ、翔喜のおごりなの?あれ。」 「・・・・・・みたいっすね。」 優星も驚いた顔で言う。 「エースの帆菜さんの目の前でアレは無いですよね。大丈夫?」 顔色が変わったのを心配される。 意識を失いそうになるのを、かろうじて踏みとどまった。 あんな冷酷なまでに打算的で、 女を人とも思わない男が、 客(しかも初回の、である)を喜ばせるためだけに シャンパンタワーを自腹で入れるなんて。 引いてきた血の気が、だんだんと頭に上ってくる。 コールが終わり、シャンパンが静かに注がれ 薄い琥珀色のシャンパンの滝に 七色の照明が当たっているのが見えた。 なんて幻想的で綺麗なんだろう。 だけど、 何かがおかしいと彼女は感じていた。 「少し気分が悪くなったから、外の風に当たってくるね。」 帆菜は穏やかな顔で優星にそう言うと、 頭を冷やす為に、店の外へと出た。
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