第十五章 乱心

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第十五章 乱心

帆菜の手元には、少し太めのカッターナイフが握られている。 刺されても死にはしないだろうが、 怪我は必至だろうと思われた。 うなるような声を上げながら、 彼女は翔喜とハルカさんの元へ迫ってくる。 アキヒトは必至で翔喜を押しのけると、 ハルカさんを横抱きにして、その場に伏せた。 怖いとかはまったく感じない。 とにかく無我夢中だった。 「うわ!やめろ!」 と言う翔喜の叫び声が、背中越しに聞こえる。 何が起きているかは分からない。 とにかくハルカさんに見せたくない。見せてはいけないと思う一心だった。 どれくらいの時間が過ぎたのだろう。 ほどなくして静かになり、 帆菜が数人の店員達に取り押さえられたのが分かった。 レイジュが警察に通報したらしい。 サイレンの音が聞こえる。 他の客は皆返されて、店の前に『臨時休業』の看板が掛けられた。 店の中にはスタッフ達と 帆菜、ハルカ、アキヒトだけになる。 翔喜は血だらけになった自慢の顔を スタッフに差し出された濡れおしぼりで押さえながら、 呆然と店の床にへたり込んでいた。
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