第二章 松井帆菜の憂鬱

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第二章 松井帆菜の憂鬱

松井帆菜は不機嫌だった。 先日ヤクザの男と若い女が自宅に乗り込んできてからというもの 毎週のようにやってきては金を置いていった 宇津井が来なくなったのだ。 “別に宇津井に会いたいわけじゃない。” 借金取りで家に来た宇津井を 苦労話と泣き落としで同情させたら 勝手に金を持ってきてくれるようになっただけだ。 その金の出所など、帆菜の知るところではなかった。 もちろんかなりヤバい金なのだろう。 知らなかったとはいえ、ヤクザに二千万の借金とあっては 地下労働施設か、遠洋漁業か・・・・・・ どこか知らないところで軟禁されて 働かされているのかもしれなかった。 あんな男などあてにしても仕方ないし、 別に肉体関係があったわけでもない。 自分で何とか稼ぐしかないと、デリヘルの仕事を寝る間も惜しんで入れ ようやく店に顔を出してもいいと思える 金額を稼いだから翔喜に会いにきたのだ。 デリヘルの仕事だってまだ若いから 地味で取り立てて可愛いわけでもない自分でも 何とかやっていけるが、 今年で25歳。 もう若さだけを売りにしていける年でもない。 メルカリで買ったシャネルのセットアップを着て 美容院でセットしてもらったヘアーで翔喜の店へ行く。 お洒落して、キレイにして やっと翔喜の顔が見られると思ったのに。 いつもどおり彼の態度は冷たいし、 もっと金を持ってこいと言われてしまった。 そりゃあ確かに裏をやれば今より実入りは増えるけど 彼以外の男とは寝たくない。 せめて顔が綺麗じゃない分、清らかな身体でいたかった。 だから、昼の仕事は意地でも辞めるつもりは無い。 翔喜と結婚するのにふさわしいお嬢様でなくても せめて有名企業で働くOLではありたかったのだ。
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