第一章 売れっ子ホストの憂鬱

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第一章 売れっ子ホストの憂鬱

翔喜は今年30歳を迎えるホストである。 北新地にある老舗のホストクラブ優に入店し、 入った翌年からナンバー1を維持し続けていた。 昔は某アイドル事務所に入らないか? と言われたほどの美少年だったが リアルな話、 <芸能事務所に入ったら、女とヤレなくなる。 モテながら稼ぐには、ホストクラブが最も割りがいい> と仲のいい先輩に勧められ、 大学を卒業したあとすぐに入店してから 丸8年が経過している。 一度ナンバー1の座を奪ってからは、人に譲った事はない。 タワーマンションの最上階に住み、 運転手つきのリムジンに乗る。 トップクラスのキャバ嬢を日替わりで抱くような生活を送っていても 実のところ本心はは空しかった。 しかもここ最近はナンバー1の座を維持するのも、 危うくなっているのを感じる。 “そろそろ潮時なのかもしれない。” 落ち着く年頃なのではないかと、自分でも感じていた。 自分で店を出して、ちょうどいい相手と結婚して落ち着きたい。 そう考えたとき、店の客と結婚するのはありえないと思っていた。 “夜のオンナは嫌だ。” 母親も水商売をしていたのでその世界の事は何となく分かるし 自分もその道に入ったくせに、 どうしても夜の稼業をしている女とは 一緒にはなりたくなかった。 そんな事を考えていた時、ふと思い浮かんだのが 行きつけの美容院で担当についてくれている 桜井遥の顔だ。 今まで、翔喜が公私共に 口説いて落ちなかった女などいなかったが、 彼女にはまったく歯が立たない。 落ちないから惚れた、というわけではないが、 翔喜が彼女の事を考えない日は無かった。 凛とした涼しげな瞳と、 媚びずにはっきりモノを言う態度。 そして意外に家庭的なところも匂わせていて、 今まで知っているどの女より魅力的だと思ったのだ。 綺麗なだけの女ならいくらでもいる。 だが、芯の強さとたおやかさを持った 極上のオンナだと、彼はハルカを見込んでいた。 毎回美容院に行くたび、携帯番号やラインのIDを聞くけれど けんもほろろで相手にされない。 もう諦めようかと思ったその時に、自分の店に来てくれたのだ。 それだけでテンションが上がる。 ただし、彼女は「お気に入り」と称して 見た目のいい、若い男を店に連れてきていた。
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