2 太陽を追いかけて

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 我が家の2階。庭の桜の木の向こう。  そこがお姉ちゃんの部屋。  家に帰ってくると最初に目に入るその窓を眺めるとき、いつもふるい記憶のかげから小さな頃のお姉ちゃんが窓の向こうから顔を覗かせているような気がしてしまう。そんな小さなお姉ちゃんは私の記憶残っていないのに。お父さんとお母さんとお姉ちゃんと。3人だけで暮らしていた頃の匂いがまだまだ強いのだろう。 「ただいまぁ」  薄暗い玄関で靴を脱ぎ、まっすぐに自分の部屋に向かおうとしたらキッチンからお母さんが私を呼ぶ声が聞こえた。 「紗南ちゃん? 亜美ちゃんからメッセージがあるのよ。一緒に聞くー?」  うっすらと開いたキッチンに通じるドアから眩しすぎる光があふれている。白い光からわずかに目をそらせて玄関をふりむくと、光に押しのけられた影がぎゅっと身を震わせるようにして隅に固まっているようだった。小さく息を吐き顔を整えてから扉を開けてキッチンに向かった。 「ほら。お姉ちゃんたち、どこかの海にいるんだって」  そう言って、お母さんはスマフォから顔を離さずにスピーカに切り替える。お姉ちゃんの明るい声が部屋に響く。 『もしもーし? 亜美でーす。今ね、海。なんかすんごーく大きい海だよー!空もめっちゃ広いでーす。あとで写真も送るねぇー。あ、ちょっともウゥ、こうちゃんなにすんのよ! 冷たいぃぃ』  後半は友人たちの歓声と笑い声にかき消えそうになりながらも、お姉ちゃんのよく通る笑い声が響く。 「とりあえず、わたしは元気です。じゃねー」  プープー。お姉ちゃんの声が消えた瞬間に無機質な電子音が響く。お母さんは満足そうに微笑んで、何よりも大切な宝物だというようにスマホをそっとなでる。そうすることでお姉ちゃんに言葉を届けようとしているようだった。大きく息を吐き出してからようやく顔を上げて、私が一緒にいたことを思い出したように微笑んだ。 「さてと。ご飯の準備するね」 「うん」  まだ夕方というのも早い時間から夕ご飯の支度を始めるお母さんの背中を見つめながら「今日はお父さんも一緒?」と尋ねたくなる衝動に駆られたけれど言葉も気持ちもごくんと飲み込んだ。  
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