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プロローグ
「幽霊にあってみたくない?」
高校の入学式の帰り道。桜の花がサラサラと泳ぐように散っていく。どこにも続かない道の真ん中で、2年ぶりに同じクラスになった寺島くんは私にそう尋ねた。冗談なのか、本気なのか、それとも単に私の聞き間違いなのか判別できなくて黙って寺島くんを見つめたまま動けなかった。
「……無視されるのは想定していなかったな」
寺島くんが顎を撫でながら首をかしげて試験問題の間違えた箇所の答を改め考えるようにくるりと目を動かした。
「え、あ、ううん。違う、別に無視したわけじゃないよ」
私はあわてて訂正する。寺島くんが私の求めているのと全然ちがう解釈を解答として導き出しても困ると思ったから。
「えっと……幽霊?」
恐る恐るその言葉を口にしてみると、「ゆうれい」という言葉は全く重さを伴わなかった。私たちがいる場所とは全然ちがう場所に属している言葉としか思えなかった。風が私と寺島くんの間を通り抜け、澄んだ青い空に浮かぶ雲は否応無しにこれから来る季節の素晴らしさを想像させる。ゆうれい。こんなところで話される言葉じゃない気がしてしょうがない。でも、寺島くんは私の問いかけに満足そうに笑った。
「そ。俺さ、幽霊と触れ合う方法を見つけたんだよ」
ニッと笑うその笑顔は学校ではあまり見たことのない表情だった。あ、コウちゃんに似ているな、そう思った。お姉ちゃんの彼氏で、私の憧れの人。だから、寺島くんは苦手なんだ。私は心の中で深いため息をつく。
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