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菫は瞼を少し開けると、一気に覚醒させ飛び起きた。だが、目の前の光景は山中で、その中に切り株に腰をかけた彼がいた。
「女、起きたのか」
無辜丸が菫を見てあまり興味無さそうに言った。
「あんた……吹き矢で倒れたのは覚えてる。その後何が?」
「殺されそうになってたから持ってきただけじゃ」
「じゃあ、あんたは逃げた方がいい。奴ら――加地衆の忍びは優秀だ。裏切った者は確実に殺している。もう随分と迷惑かけたけど、逃げてくれ」
無辜丸は菫の話を黙って聞いていたが、指示には乗らなかった。
「逃げる必要あるか?」
「え?」
あまりに突拍子なことを言ったものだから、菫はキョトンと呆けた。
「来たら返り討ちにすればいい。別に怖がることなんてないよ」
菫は、無辜丸のあまりの肝の据わりっぷりに恐怖すら感じた。いや、しかし、忍びの恐ろしさを知らないのかもしれない。見たところ、まだ十代半ばで、旅を始めたばかりだろう。世間知らずなところがあっても仕方がない。
だが――この男なら、できるかもしれない――。そのような、淡い期待さえ感じた。先の技術と、全身に纏っている隠しきれていない殺気――。幼いからか、修行が足りていないのか、それとも、隠しきれていないほどの量なのか。
「わしはそうするつもりじゃが……お主は?」
菫は唾を飲むと、頷いた。
「わかった。よろしくね」
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