第一章 鬼の子

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 菫は瞼を少し開けると、一気に覚醒させ飛び起きた。だが、目の前の光景は山中で、その中に切り株に腰をかけた彼がいた。 「女、起きたのか」  無辜丸が菫を見てあまり興味無さそうに言った。 「あんた……吹き矢で倒れたのは覚えてる。その後何が?」 「殺されそうになってたから持ってきただけじゃ」 「じゃあ、あんたは逃げた方がいい。奴ら――加地衆の忍びは優秀だ。裏切った者は確実に殺している。もう随分と迷惑かけたけど、逃げてくれ」  無辜丸は菫の話を黙って聞いていたが、指示には乗らなかった。 「逃げる必要あるか?」 「え?」  あまりに突拍子なことを言ったものだから、菫はキョトンと呆けた。 「来たら返り討ちにすればいい。別に怖がることなんてないよ」  菫は、無辜丸のあまりの肝の据わりっぷりに恐怖すら感じた。いや、しかし、忍びの恐ろしさを知らないのかもしれない。見たところ、まだ十代半ばで、旅を始めたばかりだろう。世間知らずなところがあっても仕方がない。 だが――この男なら、できるかもしれない――。そのような、淡い期待さえ感じた。先の技術と、全身に纏っている隠しきれていない殺気――。幼いからか、修行が足りていないのか、それとも、隠しきれていないほどの量なのか。 「わしはそうするつもりじゃが……お主は?」  菫は唾を飲むと、頷いた。 「わかった。よろしくね」
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