第八章 ベッドタイムストーリー

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第八章 ベッドタイムストーリー

「僕は昔からこんななりで、女の子みたいだった。 親父は跡取りが欲しかったから、僕に男らしくなって欲しくて ありとあらゆる武術を習わされていたんや。」 と、ハルカさんは語り始めた。 二人でベッドにもぐりこむなり、彼は口を開く。 アキヒトは黙って聞いていた。 「先生に直接習っていたのは空手と合気道で、 別に柔道場に通っていた僕は、そこの兄弟子達に目を付けられて イジメられていたんや。 僕の家の事は練習の邪魔になるから一切言ってないし、 ヤクザの息子だと言う事は秘密だった。」 兄弟子は高校二年生だが、華奢な中学生のハルカさんを 何かにつけて「オトコオンナ」と呼んでいたらしい。 見かけの割りに武術のセンスがあったハルカさんは、 兄弟子と組んだ時に皆の前で負かせたのだという。 「カッコいい、ハルカさん。」 アキヒトが感心したように言った。 「それがあかんかったんやろうな。 恥をかかせたっちゅーことで、イジメは見えない形で悪化した。」 モノを隠されたり、捨てられたり。 陰湿ないじめが続いたが、グズグズやられるのが嫌だったハルカさんは 直接その兄弟子に真剣勝負を挑んだ。 相手は真剣勝負を受けたといい、 ある日の練習後、二人は決着をつけることになったのだが。 「持っていった水筒に、睡眠薬を混ぜられててな。 気が付けば意識がなくなってた。」 まさかそんな事をされるとは思わず、油断していたのだと言う。 そりゃそうだろう、とアキヒトは思った。 武道とは、心を鍛えるものである。 そもそもそんな発想は、心を鍛えていたら生れるはずも無かった。
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