心の在りか

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心の在りか

 結局、楓はその週末を和之の部屋で過ごした。  日曜日の朝にベッドで目を覚ますと、朝ごはんのいい匂いが漂ってくる。衣服を身につけてリビングに行くと、続きになっているキッチンで和之が料理をしているところだった。  ダイニングテーブルには、できたてと思われるエッグベネディクトが乗っている。  この男、掃除だけでなく料理もできるのか。  少なからず敗北感を覚えたが、言っても仕方がないので素直に感嘆しておいた。 「春名くんって料理もするのね」 「まあ、部屋を綺麗にしているのと似たような理由です」  あまりにも納得できる話だ。エッグベネディクトを軽く作ってしまうような男性の胃袋を掴みとれると思う女性はそうはいるまい。  話している間に準備ができたのか、スープを持ってきた和之が向かいに座った。 「楓さんは、料理するんですか?」 「え、それは……」  作ろうと思えば作れる。簡単な料理なら失敗はしない。しかし、料理するかと聞かれれば答えはノーだ。日頃の食事は主に社食とコンビニとインスタント食品で賄われていた。  だがそれを素直に答えてしまっていいのかは迷いどころだ。女が料理できないなんてと落胆されたり弄られたりしたら、ちょっとどころでなく傷つく。  楓はじっと沈黙していた。黙っているのはほとんど答えたも同然だが、それ以外に選択肢がない。  すると予想に反して和之は柔らかく笑うだけだった。それ以上突っ込むこともなく、「食べましょうか」と手を合わせる。  後を追うように「いただきます」と告げてから、楓は目の前の彼をうかがうように見つめた。 「春名くんは、女の人が料理できなくてもあんまり気にしないの?」  和之はその質問をこそ意外とでも言わんばかりに首を傾げた。 「特には気にしませんね? 誰にでも得手不得手はあるものですし、ぼくが料理できれば二人でいるときには困りませんから。それでいいんじゃないでしょうか?」 「そ、そうね……」  頷きながら、気分が明るくなっていくのに気がつく。  和之はドSだが、女だから年頃だからこうあるべき、という偏見をまるで持っていないようだった。彼のそばにいると、楓をがんじがらめにしていた枷を一つずつ外されていくように感じる。  そのことにこの上ない心地よさを感じていた。
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