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双子だけどアルファとオメガの番という、颯真との関係性は、とくにベータには理解されにくいと思っている。飯田はベータだ。
飯田は少し難しげな表情を浮かべている。
「社長がその点を気にされるのは、とても分かります。少し言葉を選ばずに言わせていただくなら、やはり普通ではない関係だと……」
やはりそう見えるのだなと思うと同時に、繕わない言葉を使われて安堵もする。ベータである飯田の感覚は世間に近く、信用できるからだ。
「ただ、これは他人がとやかく言うものではないと私は思っていますので、お気になさらず」
万人が受け入れられるものではないと端からわかっていたはず。
飯田の言葉は、プライベートがどうあっても、オフィシャルな立場と信頼感は変わらないというものだ。
「そう言ってもらえると、気が軽くなります」
ただ、ですなあ、と飯田は腕を組んで、悩まし気な表情を浮かべる。
「社内も動揺するかもしれませんな」
森生メディカルはアルファやオメガが割合としては多いが、やはり圧倒的多数はベータだ。
どのような形であれ、社長の番がアルファである双子の兄という事実が明らかになれば、ベータの理解は超えるかもしれない。いくら常日頃アルファとオメガの領域に関わっている製薬会社の社員といっても、アルファやオメガのすべてに理解があるわけではない。少なからず……いや、確実に動揺があるだろう。
それに、潤はこれまで家族の話……とくに双子の兄がいることを、社内で口にしたことはあまりない。マスコミの取材でもそのあたりを話す機会もなかった。その兄が大口の取引先である誠心医科大学横浜病院のアルファ・オメガ科の医師であることも、だ。さすがに誠心医大に関わる担当者は知っているが、人数は多くはない。
そもそも颯真と潤は双子といえどあまり似ておらず、血縁と察することができる材料は苗字くらいだから、驚きが重なるだろうと思う。
「社長、社内で事前にこのことを知っている人物はいますか?」
飯田の問いかけにアルファ二人を挙げる。
「江上と藤堂です」
潤は藤堂にも先月の同期会で話していた。先ほどのように指輪を指摘されたことがきっかけだった。
「そうですか。江上室長は知っていると思っていましたが、藤堂くんも……。ならば早急に対策を立てましょう」
「そうですね。明日にでも……」
潤の言葉に飯田は即座に口を挟む。
「いえ、社長。これは早い方が良い。もし、集まれるのであれば、今日やってしまったほうが良いですよ」
飯田の言葉に潤は驚いた。
「これからですか」
「ええ。このような情報共有は一刻も早い方が良い。それに、今すでに社長と私、香田さんが集まっているのですから」
なるほどと納得する。飯田のこの判断は正しい。
潤は頷いた。
「そうですね。可能なメンバーだけでも集めましょう」
自分のプライベートでせっかくの休日に招集をかけてしまうのは申し訳ないが、そのようなことを言ってもいられない。
マスコミに掴まれてしまったのはそのような情報なのだから。
飯田は、江上と藤堂、そして大西に連絡を取るとのこと。すでにスマホを取り出して、大西に連絡を入れ始めている。
「大西さんは何も事情がわからず呼び出されるわけですが、まあアルファだから大丈夫でしょう」
飯田はそんなことを言っている。彼にしては扱いが大雑把であるが、ベータよりはアルファやオメガに理解しやすい話だと飯田も考えるのだろう。
大西はどう反応するだろう。
「あと、香田さんにも立場的に話さないとなりませんね」
週刊東都からの問い合わせメールは香田宛だ。
「そうですね」
潤は素直に頷くだけだ。
「社長、このお話、香田さんにはわたしから今話しておきますね。彼も百戦錬磨の広報マンなので、多少のことには免疫がありますし、そもそも柔軟な考え方の人なので、大丈夫ですよ」
飯田はそう軽く請け負ってくれる。こういう時の飯田はとても頼もしい。潤はすべて彼に任せることにした。
潤が同席すると香田に無理をさせてしまうだろうし、そこは申し訳ないが飯田の方が適任に思える。
「わかりました。よろしくお願いします」
潤が素直にそう言うと、飯田は頷いた。
「承知しました。メンバーが揃うまでお茶でも飲んで、少しお待ちください」
そう軽く言ってから一礼し、退室した。
飯田が退室したあと、潤はソファーに深く腰掛けた。陽の翳りで薄暗くなってきた室内を見上げる。
大丈夫、負けないと思っていたのに、胸がドキドキして嫌な汗をかいている。精神的にもう負けている気がする。
本音を言えば、夢であってほしいくらいの展開だ。書かれるときには書かれる、と分かってはいたけど、本当にこのようなプライベートなことを書き立てられることになろうとは。
実感として、自分は理解できていたのだろうか。
こんなふうに部下にも迷惑をかけて……。
いや、思考が良くない方向にきていると、潤は自分を諫めた。
颯真に会いたい。
三十分ほど前に別れたばかりなのに、寂しさが募る。なぜか自分がいる場所がアウェイのように思えてきて、心細く感じるのだ。
腕時計を確認すると、現在午後三時半。これから集まれるメンバーが来たとして、帰宅は夜になるだろう。
とはいえ、寂しいとか心細いなんて口が裂けても言えないが、颯真には連絡をしておかねばならないだろう。
スマホを取り出して、メッセージアプリを立ち上げる。いつも呼び出せるところに颯真のアイコンを置いていて、それをタップした。
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