ケチャップ王子は取り込み中

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ケチャップ王子は取り込み中

「王子ーー。ケチャップ王子ー」 部屋の外で誰かが呼んでいるようだが、放っておこう。 なにしろこれは、もう少しで解けそうなんだ。なかなか手ごわいパズルだったが、ボクの頭脳にかかれば解けないはずは無い。もう一歩だ。うん、あと一歩だが、コーヒーと何か甘いものが欲しいな。ドンドンとドアを叩く音で気が散って仕方ない。あのウルサイ「お守り役」をなんとか追っ払わないと・・・ 「王子っっ、あけてくださいっっ。」 「わかった。ドアが開けて欲しかったら、とびっきり濃くてうまいコーヒーとチョコレートでももって来てくれたまえ。」 「王子っ、もうじき港ですよ。いい加減に着替えて身支度してくださいよ。ここの国の王様とお姫様に会うんですから。」 「そんなことは知らん。いいからコーヒーとチョコをもってこいよ。」 「コーヒーとチョコですねっっ。持ってきたら、風呂に入ってちゃんと身支度してもらいますからねっっ。」 「わかったわかった。」 ふぅ、ようやく少しは静かになった。が、アイツのことだ。すぐに戻ってくるだろう。なんとかコーヒーとチョコだけせしめるわけには行かないだろうか。 だいたいこんな旅に出るはずじゃあなかった。『新しい船ができたから、見にいきましょう。王子の好きな色んなからくりがある船ですよ。』なんていわれて、のこのこ着いていったのが間違いだった。 あのときから、トンガラシだかタバスコだかに連れて行く気だったんだろう。オヤジもグルに決まってる。全く困ったもんだ。どうせそこの姫君と踊ってこいだの、気にいられるようにしろだの、言うに決まっている。女の機嫌を取るなんて面倒なこと、やりたくないっていってるのに。 そうだ、いっそこの船から逃げてしまえば。着替えろとか言ってたってことはすでに港についてるはずだよな。パズルを解くのに集中して気がつかなかったが、耳を澄ませば物売りの声なんかも聞えるような気もする。 しかし、逃げるって言っても早くしないとお守り役はすぐ戻ってくるだろうしドアは1つしかない。どうしたらいいんだ。パズルより難しいぞ、これは・・・ そんな事を思っていると、ガッチャーンと派手な音がしたので驚いて振り返るまもなく、目の前が真っ暗になった。何かをかぶせられたのか身動きもできない。 「王子っっ、今の音はなんですかっっ。あけて下さい」 ドンドンとドアを叩く音が聞えた。 「お静かに願いますよ。」 という声して、何かの香りをかいだと思うまもなく意識が遠ざかって体が力なくくず折れていくのを感じたのが最後だった。
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