お守り役のマスタード

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お守り役のマスタード

王子の部屋から物の割れる派手な音が聞えたので、あわてて駆けつけて ドアを開けようとしたが、鍵がかかっているのか開かない。 「王子、今の音はなんなんですっっ。」 返事は無い。 「誰か、船の向こう側を見に行ってくれ。王子に何かあったらしい。急げっっ。」 合鍵を使ってドアを開けると、窓が壊れていて王子の姿は無い。 「王子っっ。たちの悪いイタズラは止めてでてきなさいっ。」 「マスタード君、これは王子のイタズラではなさそうですよ。ほら、窓ガラスの破片は部屋の内側に散らばっているじゃない。これは外から侵入者があったに違いないわ。」 冷静な分析をするのは、ケチャップ王子の従姉妹。『ヒマだから私もついていって、トンガラシ畑でも見にいくわ』と勝手に船に乗り込んできたウスター嬢。亜麻色の髪に、乗馬やクリケットで鍛えた背の高いすらっとした身体のアウトドア派。ケチャップ王子のインドアとは対極なわりには、よく遊びに来ている。彼女がいてくれるおかげで、気難しいケチャップ王子も少しは気がまぎれているところもあるようだ。 「なるほど。たしかに窓は外から壊されたようですね。」 「王子のことだから侵入者に喜んでついていった可能性もあるけど、それでも行方不明じゃ困るから探しに行かなきゃね。」 「なんか喜んでません?」 「わたしが?まさかー。」 そう言う割には、楽しそうなウスター嬢。もしかして、ウスター嬢がこの騒動に一役買ってるんじゃないかと疑ってしまいそうになるマスタードだったが、とにかく王子を探さないと。 壊れた窓から外を見ても、特に変わった様子は無く海が広がっているだけだったが、音がしてからまだそんなに時間は経っていないはずだから、どこかに船の一艘や二艘みえてもいいはずなのに・・・。 「でも、なんでケチャップを誘拐したのかしらねぇ。王子だから身代金でも要求してくる気かしら。ポモド王国が貧乏なのを知らないやつね、もし身代金目当てだとしたら。」 「ウスター嬢、あんまり大きな声で貧乏貧乏って言わないで下さいよ。」 「だって本当じゃない。だからこの国のお姫様と縁組しようなんていう魂胆で王子をこの国につれてきたんでしょ。」 「しっ、もうちょっとヒソヒソ言って下さいよ。」 「いいじゃない。どうせみんな知っていることなんだし。」 「まあそりゃあそうなんですけど・・・。」 「なにしろこの国には名高い『赤い星空』とよばれる、世にも珍しい真っ赤なオパールがあるんだし。他にもいろんなお宝がうなってるって言う話じゃない。そんな国と親戚になれば、わが国もちょっとは助かるってところでしょ。」 「ウスター嬢・・・。と、とりあえず王子を探さないと。縁組も何も話が始まりませんよ。」 「そうね。わたしも手伝いましょうか。」 「いや、ウスター嬢は船にいてください。」 「これ以上、行方不明が出ると困るって事ね。わかったわ。」 「お願いします。では、私はこれで。」
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