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結婚式
「トンガラシ姫様、ご結婚おめでとうございます。」
「ケチャップ王子様、お幸せにーー。」
口々にお祝いの声を上げる人々の間を、二人の馬車ははしりぬけていく。真っ赤なバラとトンガラシに埋まっている二人に、周りから花が投げ込まれていく。
「やれやれ、しかしハナさんが姫様のあとを追っていって隠れている家を見つけてくれなかったら、と思うと。」
「いえいえ、マスタード様。たまたま、姫様の犬のストロベリーがお役に立ってなによりでした。」
「それにしても姫様は『赤い星空』を気にしておられましたけど、あれは確かずいぶん厳重な所に保管してあるのでしょう?」
「ええ、きっとなにか悪い夢でもみられたのですわ、姫様は。」
「そうでしょうなあ。いや、うちのケチャップ王子と一緒にいたというのも偶然でしょう。」
「一体どうしてそんな事になったのやら、私にも・・・。でも、そんなことはどうでもいいじゃありません?」
「そうですね。お互いの国のため、丸く収まったということで。」
二人とも、にやっと笑い姫と王子の行列のあとにお供としてついていくのでした。
その夜、ウスター嬢とハナはこっそりと一つの部屋に集まって祝杯をあげてました。
「計画の成功をいわって!」
「お二人の幸せをいわって!」
二人は実はロイヤルハイネス「出会いクラブ」の一員だった。
このクラブは王族の子息や姫君の縁結びのための組織。
変わり者、偏屈、偏った好み、引っ込み思案、見た目のコンプレックス等々のある「難アリ物件」、もとい「縁遠い高貴な方たち」のための出会いの場を提供するもの。
親である王様やお后様からの依頼を受け、マッチングをして首尾よくまとまったら報酬がいただけるというもの。だいたいご子息や姫君の侍女やお守り役、
少し遠い親戚のものなどが所属していることが多い。
今回は、トンガラシ姫の侍女のハナとケチャップ王子の従姉妹のウスター嬢が
その任に当たった。黒い瞳の黒ずくめの男の正体は実はウスター嬢。女性にしては高い身長と鍛えた身体、あとは少々の変装。「異国の男」であれば少々変わった髪形でも服装でも、ごまかせるというわけ。
「それにしてもダチョウの卵に色を塗ったものを『赤い星空』っていって箱に入れておくなんて、よくやったわね。」
「たまたまアナタが『赤い星空』はダチョウの卵ぐらいの大きさって言ってたから、ちょうどいいかと思って。ダチョウの卵ならうちの農場に行けば手に入ったし。」
「どうせ姫様はオパールがどんなものか知らないと思ったから、うまくいったわ。お守り役のマスタードは何か感づいてるようだけど、彼だって面倒な王子のお守りが楽になるから、黙っていると思うわ。」
「そうね。とにかく、うまく行ってよかった。ケチャップもこれで少しは身奇麗にするでしょう。」
「そうよねー、最初見たときは無精ひげ生やし放題、服もいつ着替えたか分からないし、汗臭いし、本当に王子かと思ったくらい。」
「気を失っている間に、風呂に入れたり髪を洗ったり、服を着替えさせたり。アレが一番大変だったかも。」
「そうそう、なにしろ姫様のどストライクに仕上げないとだったから。」
「私たちの苦労も報われたってことで。」
「そうね。乾杯ーー!」
こうしてロイヤルハイネスクラブ「出会いクラブ」は、また一つ幸せなカップルを作ったのであった。
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