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修行の日々
レオールと一緒に一体、どれだけ道なき道を歩いただろうか。当たりは既に闇に包まれ始めている。夜になり、闇に生きる者達の動きが活発になり始めた頃。
「ここだよ」
レオールの優しい声に無造作に反応する。レオールの家は、深い霧に包まれた山の頂に建っていた。
しかも、バラックではない。しっかりとした家だ。凌げるのは雨だけではない。家の中に入れば、風も直接吹きつけることはない。
「修行は明日の朝から始める。今日はもう休んで良いよ」
私はレオールに導かれるがまま、家の中に入る。家の中は殺風景で、特に何か変わった物がある訳ではないけど、温かい温もりの中で寝ることができる。私にはそれすら、掛け替えのない物だったから。
鳥達の鳴き声が木霊する中、私の朝は始まった。こんなにぐっすりと寝ることが出来たのは生まれて初めてだ。朝の光の優しさを感じながら、私は家の外にでる。
外ではレオールが鉈で薪を割っていた。
「おはよう。エリーナ。朝食が終わったら修行を始めるよ。良いかな」
「はい。よろしくお願いします」
私はレオールに深々と頭を下げる。
私にはレオールから服ももらえた。いつもはボロボロの布を身体に巻きつけていただけだったけど、しっかりとした服を着たのは始めてだ。黒い薄い感じの布で出来た服だけど、身体の動きに対して余裕のある感じのある作りで、とても動きやすかった。
朝食が終わり、早速、レオールから指示がでる。修行の開始だ。
レオールから渡されたのは、左右に樽のついた天秤棒だ。山の麓にある湧水を汲んでくるように言われた。
私は天秤棒を担ぎ、山を下り始める。獣道をしっかりと踏みしめて降りて行く。山を降りると綺麗な川が流れていて、流れに逆らって歩いていくと、川の流れは緩やかになり、岩の割れ目から綺麗な透き通った水が、湧き出していた。
私は二つの樽に湧水を入れ、天秤棒を担ぎ、歩き始める。
両肩に喰い込んでくる天秤棒。両脚に圧し掛かってくる、圧倒的な重量感。一歩を踏み出すことすらとても辛い。
両脚の太ももがあっという間に震え出す。お尻に痛みが走り出す。
両膝がガクガクと震え出し、バランスをとることすら困難となってきた。
それでも私は歩き続ける。歩く速さは蝸牛より遅くなろうとも……。
山の麓に辿りつき、山を登り始める……。
もはや、両脚は麻痺したような状態になってきた。それでも、一歩、一歩をしっかりと少しでも前に進む。これだけで、一日が終わってしまうかもしれない。
けど、これが修行だと言うなら、やり遂げなければならない。そうしないと、私に人並みの生活は約束されないのだから……。
吹きだし続ける汗で、服は重くなり、肌にぴったりと気持ち悪いくらいに纏わりつく。両脚の震えは酷くなる一方で、もはや数センチ進むのに、一体どれだけの時間を費やしているのだろう。
それでも私は両肩に食い込む天秤棒の硬さに耐えながら、一歩、一歩、山を登り続けた。
ようやく山頂に着き、水瓶に水を入れる事が出来た。
両脚の震えが一気に酷くなり倒れ込む。
「良く水を溢さずにここまでこれたね。今日はもうゆっくりと休んで良いよ」
レオールは腕を組み、笑顔を浮かべていた。私はただ、息を激しく切らせ、虚ろな瞳で、言葉もなくレオールを見つめることしか出来なかった……。
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