旅立ち

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旅立ち

   私は大人になり、今もレオールの基で修業を続けている。今や、私の戦闘能力はレオールを上回っている。 「私はもう歳だから。やっぱり若さは素晴らしい」  これが最近のレオールの口癖になっている。私はいつものように、レオールからお金を預かり、街へ買い物へとでかけた。  街は相変わらず変わらない……。  貧困に支配された世界……。光なき未来しか待っていることはない。そんな空気感しか漂ってこない。私は市場でレオールに頼まれた食べ物を買い、レオールの待つ家へと向かう。こんな街には一秒たりとも余計に居たくない。  最近は、料理も私がやっている。これも修行の一つとレオールに仕込まれた。  私は山を一気に駆け上がり、私の帰りを待つレオールの元へと向かう。  門を潜った時、私は何か異様な空気を感じた。何となくいつもと違う風の流れ……。  違う……。  今、私が感じている空気感に日常は存在していない。  私は買い物袋を置き、只ならぬ気配を察しながら、静かにゆっくりと歩き始める。  私の取り巻く静寂……。  静寂に支配された空間の中、空気を切り裂くような鋭い音が響く。  何かの風圧のような物を感じながら、バックステプでかわす!  目の前に立ちはだかるは、全身、鼠銀色の毛で覆われ、獰猛な野犬のような顔立ち、筋肉の量もかなりのものだ。更に隣には、猛牛のような顔立ち、全身が黒い毛で覆われた化物。  人獣……。  噂では聞いていたけど、本物は始めて見た。  野犬の両手の鋭い爪が鈍い光を放つと同時に、振り回すような一撃を左、右と交互に放つ。  私は身体を左、右と回してかわし、右フックを野犬の脇腹に叩き込み、左アッパーをボディーに差し込むように打ち込む。野犬は呻き声を上げ、身体をくの字に曲げて下がる。  猛牛が頭の角を向け突進をしてくる。  私は身体を右回転させて猛牛の頭突きをかわし、猛牛の首に右腕を回して両手をクラッチして絞め上げるが、猛牛は両腕で私をお腹の辺り掴み、持ち上げて後ろに放り投げる。  私は身体を捻り、反転させて、後頭部を地面に叩きつけられるのを防ぎ、地面を転がりながらも立ち上がる。  二人の人獣は円を描くように動きだし、私を挟むような位置を取る。  野犬が右の突きを真っ直ぐに打ち込んでくる。私は左腕で受け流し、身体を左に反転させてから右の肘を顔面に打ち込み、左の膝を突き刺すように脇腹に打ち込む!  野犬が前に倒れ込んだ所を捉え、野犬を投げ飛ばす。  猛牛が右のパンチを振り回してくる。私は左腕でガードをし、右ストレートを放つが、猛牛は頭を下げてかわし、右の蹴りを放つが、バックステップでかわす。  猛牛の左の大振りのパンチが飛んでくる。私は身体を左に回してかわし、左の手刀を猛牛の首筋に打ち込み、右の蹴りを猛牛の顔面に叩き込み、猛牛を倒す。  二人の人獣から一旦、距離を取る。  立ち上がり、私を睨む二匹の人獣。  二匹の人獣を睨みながら、ゆっくり回るように動きだす。  猛牛が右のパンチを斜め上から振り落としてくる。下がってかわす。野犬が飛び上がり蹴りを打ち込んでくる。身体を右側に仰け反らす感じのサイドステップでかわす。  体勢を立て直したが、猛牛の突進を受けてしまい、弾き飛ばされ倒れ込んでしまう。立ち上がるも、野犬の左のアッパーをボディーに叩き込まれてしまい、息が詰まったような声を上げ、身体をくの字に曲げた状態で下がり出してしまった所に、右の大振りのパンチを顔面に打ち込まれ、ふら付き倒れ込んでしまう。  何とか片膝立つ。  突っ込んでくる猛牛!  私は右足で地面を蹴り、左膝を地面に付けた状態で右ストレートを猛牛のボディにー突き刺すかのように打ち込む!  呻き声を上げて、正面から倒れ込む猛牛。  素早く立ち上がる私。  野犬の右ストレートが顔面を目掛けて飛んでくる。  身体を左側に反らすような感じでかわし、左フックと右ストレートを顔面に放ち、左のバックスピンキックを野犬の胸に叩き込む!  野犬は呻き声を上げ、ばったりと倒れ込んだ。  二匹の人獣は黒い煤のような物を煙のように捲き上げ、消滅していく。 「どうして人獣がこんな所に……」  私はただ、呟くしかなかったが、レオールの事が咄嗟に頭に浮かぶ! 「レオール!」  私は叫びながら、家の中へと慌てて入る。 「嘘でしょう……」  荒らされた家の中と広間の中央に倒れ込んだレオールの姿が、私の視界に飛び込んできた。 「レオール!」  私はレオールの上体を抱き起こして、何度も大声で名前を叫んだが、冷たくなったレオールが私に優しい声を掛けることは無かった。 「レオール……」  独り言を続けるかのように名前を呟き続け、私はただ、レオールの傍に座り込んだまま、涙を流し続けるだけで、何も出来ない状態になってしまった。  どれだけの時間が過ぎたのだろうか。当たりは暗くなっていた。  少し落ち着きを取り戻す事は出来たけど、私の心にはぽっかりと大きな穴が空き、何をしたら良いのか分からない状態だった。 「夜分に失礼する」  男の声に振り向く私。  そこには、黒いマントを羽織り、全身は黒ずくめで、頭に二本の角のような物がある兜、両肩、胸、前腕、膝から足首にプロテクターのような物を装着していて、体格もしっかりとしていて、鋭い目つきではあるが、端正な顔立ちの男が立っていた。 「貴方は誰なの?」  泣きながら、尋ねる私。 「私はクレイド。かつて、レオール師匠にお世話になった者です」  男は会釈をし、丁寧に答える。 「これは一体……。何が起こったのだ」  男は辺りを見回し、驚いた表情で私に尋ねる。  私はしゃくり上げながら、悲しみに耐え、必死に事の顛末を男に話した。  
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