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僕は目から鱗が落ちた。
恋愛ごとなんて今まで興味を持ったこともなかったし、無関係だと思っていたから、全然知らなかった。まさか、人気のある人と恋人になるために「予約」なんて制度があったなんて!
確かに考えてみれば、予約というのはなかなかに理にかなっているようにも思えた。仕事でも、無理矢理割り込んでいっても心象が悪くなるだけで、成約することなんてほとんどない。強引なやり方で契約できるのは相手方もそういう気質の場合ばかりで、大概そのあとは続かなくなる。
恋愛もきっとそうなのだ。僕が思っていたよりも、ずっと合理的な側面を持ち合わせていたらしい。
口をつけないまま氷が溶け始めたコーラを、飲みもしないのに僕はぐるぐるとストローでかき混ぜた。
先輩くらい素敵な人なら、もう他の人にも予約されてしまっているだろうか。今の彼氏さんだって、先輩を予約してやっと恋人になったのかもしれない。
先輩が恋人と順調なら予約に意味はないし、それどころか迷惑になるかもしれない。銅条にも行動に気をつけろと言われたばかりだ。
でも知ってしまったからには、今動かなきゃ後悔する気がした。たとえ結果に繋がらなくても自分が納得をする仕事をしろと、営業部の先輩だって教えてくれたじゃないか。
もしかしたらなんて気持ちはゼロじゃないし、望む結果に繋がらなかったとき、本当に納得できるのかもわからない。だけどもし、今より先の分岐点に先輩が一人で立つことがあるなら、僕は可能性の一番前に並んでいたい。
スマートフォンが再び鳴る。
隣の女の人たちはもうとっくにいなくなっていて、隣の席では向かい合ったカップルが仲よさそうにポテトを食べていた。
「みーなせ! お疲れーい。待った?」
カップルに影が入ったかと思うと、よく知った顔が僕を見下ろした。
「銅条」
「あ、なんか食っちゃった? 今日の店、ちょっとボリュームありそうなんだけど」
「銅条、予約って知ってる?」
「予約? そりゃ知ってるけど。ちなみに今日の店は予約してないぜ。予約した方が間違いないんだけどな」
向かいに腰を下ろしながら、銅条は僕の薄まったコーラを飲んだ。
「そうだよね。予約、した方がいいよね」
「うん? まぁそうかもな」
銅条の手首を掴んだ僕が前のめりに言うのに、銅条は「どうしたんだよ」と愉快そうに笑った。
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