ep.1

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 * 「後輩に告白されたあ!?」 「ちょっとちょっと声大きい! ……っていうか、正確には違うってば」 「どこがよ」    ランチタイムの社食で話すのはどうにも気が引けて、会社近くのファミレスにマキノを押し込んでから数十分。私は木曜日の日替わりランチセットであるデミオムライスをバランスよく掬い取りながら、マキノの好奇の視線を一身に受けていた。  昼食を社食ですませる人の多い会社の中で、わざわざ外に食べに出る人は大概、近くに数件建ち並ぶ安くてきれいなカフェに流れる。このファミレスは会社から近いわりになかなかの穴場で、あまり知人に聞かれたくないような話をするときはいつもここを使っていた。とはいえ今回は別になにがどうなったというわけでもなく、こそこそする必要もないと言えばないのだけど、そう広くもない同じ部署の後輩と変に噂を立てられるのは彼のためにもならないし、できるだけ面倒は避けておきたかった。  しかしこうやって改めて声に出して説明してみると、昨日のできごとはまるで夢かなにかなのではないかと思えてくる。  あれは本当に、なんだったんだろう。  マキノに言ったとおり告白はされていない。それは事実だ。だけど。  私は、アイスコーヒーにガムシロップとミルクを次々に投入してから、平静を装ってぐるぐるとコップの中をかき混ぜた。  思い返そうとしなくても浮かんでくる昨日のことが、喉に流し込んだアイスコーヒーと逆流するようにせり上がってきて、昨日の水瀬くんが、濁流になって押し寄せた。
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