ep.2

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ep.2

「先輩、横入(よこはい)りってどう思います?」  社食でひとりきつねうどんを啜っていると、後ろから覗き込むようにして顔を出した水瀬くんが、なんの脈絡もなく私へ尋ねた。 「っわひぁ……!」 「あ、すみません」  思わず出た上擦った変な声に、水瀬くんが相変わらずのぽやっとした顔のまま身体を引いて、私との距離を取り直した。 「横入り?」  咳払いをふたつしてなんでもないふうに聞き返しながら、私は辺りを見回した。  社員食堂は今日も利用者が多く、各部の社員が次々にやってきて賑わいを見せている。男性社員と女性社員の割合はほぼ半々といったところで、カップルなのか友人なのか、一緒のテーブルで食事をとっている人もちらほら見受けられた。食事の受け取りに並ぶ列はいつもどおりそれなりに延びてはいるけれど、さすがにいい大人が集まっている社内の食堂で割り込みをするような社員は見当たらなかった。 「横入り、誰かにされたの?」 「そういうわけじゃないです。ただ、先輩はどうかなって。横入りされたら、先輩、どうですか?」 「え、そりゃあいい気はしないけど……」 「きらいですか?」 「……まあ、そうだね」  そもそも横入りが好きなんて稀有な人、そうそういないだろう。今この食堂に集まる人全員に聞いて回ったって、きっとみんなそう答える。  意図もよくわからず曖昧に返す私に、水瀬くんは神妙な顔をしたりハッとしたりと一人百面相を繰り広げたあと、納得したのか「ありがとうございます」と小さく頭を下げた。  目の前で、形のいいきれいな頭が上下に動くのに合わせて、柔らかそうな栗色の細い髪がふわふわと揺れる。  けれどそれもちょっとのことで、顔を上げた水瀬くんは、突然の意味不明な質問の説明をすることもなく、揚々と食堂を出ていった。 「で、なんの質問だったのよ……?」  振り返ることもないまま姿勢よく歩く背中を見送って、私は少しぬるくなったきつねうどんに深々とため息を落とした。
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