ヤンデレイケメン × モブ少女【ドMな僕の愛し方】

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「好きだよ、君のことが」  人はなぜ、人を好きになるのだろう。 「好きだよ、たとえ離れていても」  人はなぜ、人を愛してやまないのだろう。 「心から君を愛してる」  人はなぜ……。 「I LOVE YOU」  それはきっと……神様のイタズラ。 「あの、気持ち悪いんですけど……」  はい、気持ち悪いいただきましたー!      ※  僕の名前は青柳翔平。  いわゆる、ヤンデレ男子だ。  自分で言うのもなんだけど、こう見えてかなりモテる。  容姿端麗、学業優秀、運動神経抜群、その上生徒会長という最高のステータスを保有している。  そんな僕が唯一無二にして、決して手に入れられない存在がいる。  それが彼女、間宮楓だ。 「青柳先輩、何度も言いますけど、そうやって毎朝校門前で待ちかまえてないでください。私、別に青柳先輩のこと好きじゃありませんから」 「僕も何度も言ってるだろう? その先輩はやめてくれって」 「じゃあ、なんて呼べばいいんですか?」 「どうぞポチとお呼びください」 「キショい! マジ、キショい!」  くふう、なんて顔で嫌がるんだ。  最高に可愛いじゃないか。  楓は僕の一つ下、つまり二年生で三ヶ月前にこの高校にやってきた転校生だ。  その顔はまさに天女。女神。世界の三大美女。歴史の教科書に載るレベル。  周りの人間からは「いや、普通だろ」と言われるが、理解できない。  彼女ほど光り輝いてる女子はいない。  後光が射している。  キラキラ、キラキラとそれはもうオーロラのように眩しいほどに。 「女神」と書いて「かえで」と呼んでもいいかもしれない。  そんな女神様は眉を寄せながら言い放った。 「もう我慢の限界です、二度と私に話しかけてこないでください!」 「どうしてそんなに嫌がるんだ。僕は別に君を困らせるようなことはしてないだろう?」 「困ります! 困ってます! 青柳先輩のアプローチが激しすぎて、青柳先輩ファンの人たちから嫌がらせ受けてます!」 「そうなのか?」 「そうなんです! なんとかしてください!」 「ふう、困った子猫ちゃんたちだ」 「その言い方がもうウザい!」  ああ、楓。  怒った顔も最高にキュートだよ。 「わかったわかった。じゃあ、今日の全校集会で釘を刺しておくよ」 「……なんて?」 「僕の楓に手を出すなって」 「全然わかってねえええぇぇッ!!!!!」  ガッデム! と言いながら地団太踏む彼女。  暴言まで素敵だなんて。  もうパーフェクトヒューマンじゃないか。  惚れ直したよ、楓。  そしてできればあの踏まれてる地面になりたい。      ※  そんな楓と僕との出会いは約三か月前にさかのぼる。  あれは初夏の香り漂う6月の終わり頃だった。  いつものように放課後、生徒会室に向かっている時のこと。 「ううむ、職員室で先生の雑談に余計な時間を食ってしまった。これでは定例会議に30秒遅れてしまうな」  急ぐか、と長い廊下を華麗に走り抜けていると、階段の踊り場で一人の女生徒とぶつかってしまった。 「きゃっ」  女生徒は可愛い声をあげて尻餅をついた。  それが彼女、間宮楓だった。 「あ、すまない。大丈夫か?」  僕は手を差し伸ばして尻餅をついた彼女を引っ張り上げた。 「ごめんなさい。よく見てなかったもので」 「こちらこそ。走っていて気が付かなかった」  セミショートの黒髪に大きな瞳、小ぶりな唇、ほっそりとした頬。  校内では見かけない顔に、はて? と思った。 「……君は?」 「あ、私は楓。間宮楓と言います。今日、引っ越してきて、明日からこの高校にお世話になる者です」 「転校生か」 「あなたは?」 「僕は青柳翔平。一応、ここの生徒会長だ」 「あ、せ、先輩だったんですか!? す、すいません」  パッと引っ張り上げた際につないだ手を引っ込める彼女。  正直、女子のほうから手を引っ込められたのはこれが初めてだった。 「ああ、別に気にしなくていい。この学校はあまり上下関係にはうるさくないからね」 「そうなんですか、よかった」  ホッとため息をつく彼女。  なぜかその時ピリリとしたものを感じた。  思えばこれが恋の始まりだったのかもしれない。 「楓さんはこの学校は初めてかい?」 「い、いえ……。編入試験の時に一度……」 「二度目か。じゃあ、あまり校内は詳しくないよね? よかったら案内してあげようか?」  僕は定例会のことなどすっかり忘れてそんな提案をしていた。 「お気持ちは嬉しいんですけど……私そろそろ帰らないと」 「どうして? いいじゃないか、明日から同じ学校の生徒なんだし。そうだ、できれば今夜ディナーでもどうだい?」  僕の渾身のウインク。  これで落ちなかった女の子はいない。  ところが、楓は落ちるどころかものすっごい表情をして見せた。 「キモ……」 「へ?」 「ああ、いえ! なんでもありません! ごめんなさい、遠慮しておきます。今、家で弟たちが待ってるんで早く帰らないといけないんです」 「ああ、そうか。弟たちが家にねえ。それは早く帰ってあげなきゃね」 「すいません、せっかく誘ってくださったのに」 「いや、いいんだ。でもディナーの約束だけはしておきたいな。君の隣の席、僕の名前で予約しておいてもいいかい?」  渾身のウインク & ニッコリスマイル。  これでどうだ、と言わんばかりに彼女の瞳を覗き込む。  ところが楓は、さっき以上に蔑んだ目で僕を見つめた。 「キッモ」 「………」 「………」 「………」 「あああああ、ごごご、ごめんなさい! 別にあなたがキモいとか、そういう意味じゃなくて……あ、いや、そういう意味なんですけど……えーと、なんていうか」  キッモ。  キッモ。  キッモ……。  あの一瞬、そのフレーズだけが頭の中を駆け巡った。  キモい。  それは僕のことか?  僕のことなのか!? 「はふん」 「あ、ちょっと。青柳先輩!?」  気づけば、僕は彼女の前にひざまずいていた。 「な、なんて……なんて甘美な響きなんだ……楓さん」 「え、あの……?」 「今までになかったこの快感。蔑みの言葉がこんなにも心に響くなんて……。君は僕の天使だ」 「目が! 目がヤバいんですけど!? ちょっと、なんなの!?」 「楓さん、いや、ミス楓。僕と付き合ってください」 「無理いいいぃぃぃぃッ!!!!!」  そして現在にいたる。  それからというもの、僕は何度も何度も彼女にアタックした。 「楓さん、僕と付き合ってください」 「ごめんなさい」 「楓さん、僕と愛を育もう」 「ごめんなさい」 「ミス楓、僕の愛を受け取ってくれ」 「無理です」 「To楓、アイ ウォンチュー」 「ノーサンキュー」  僕は毎日毎昼毎晩、彼女の前に現れては愛をささやき続けている。  しかし、三か月経った今でも楓は僕の愛に応えようとしてくれない。  してくれないどころか、ひどい言葉で罵ってくる。  それが僕には……嬉しくて仕方がなかった。      ※ 「あのですね、青柳先輩」 「なんだい? 僕の楓」 「その呼び方もやめてください!」  もおぉぉぉーッと髪をかきむしる楓。  ああ、あんなに爪を立てて。  できればその爪で僕の頭もかきむしって欲しい。 「いいですか? この際はっきり言います!」 「うん? なんだい?」 「私、あなたが大っ嫌いです!」 「うん、知ってるよ」 「し、知ってるよって……。そんな、けろりと答えないでください!」  けろりって……。  けろりって……!!  なんて表現が可愛いんだ、楓。  ああ、楓。僕の楓。 「気持ち悪い! 目つきが気持ち悪い!」 「生まれつきこういう目なんだ」 「生まれたての赤ちゃんがそんな目してたら、両親泡ふきますよ!」  どんな目をしてるんだ、今の僕は。 「ああもう無理! 生理的に無理!」 「楓……?」 「名前すら呼ばれたくない! 不愉快です!」 「楓……」 「もう金輪際、私の前に現れないで! 顔も見たくない!」  な、なんてことだ。まさか……そんな……。 「か、楓……」  楓は……楓はそこまで僕のことを……。 「うっく……」  あまりの衝撃に身体が崩れ落ちる。  こんなこと……初めてだ。  胸がドキドキして、息切れを起こしている。  まさか、ここまでとは……。  胸を押さえながら地面に膝をつくと、それに気づいた楓が慌てて駆け寄ってきた。 「ち、ちょっと。青柳先輩……!?」 「ハア、ハア……。す、すまない……ちょっと衝撃が強すぎて……」  言い過ぎたと思ったのか、急に楓がオロオロとし始めた。 「ごごご、ごめんなさい。言い過ぎました。ごめんなさい。でも、こうまで言わないと青柳先輩は……」 「わかってる、全部わかってる」 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」  涙を見せる楓の目をそっと指で拭う。  ああ、なんて天使な顔をしてるんだ。楓はどんな時でも僕の天使だ。 「違う、嬉しいんだ」 「……へ?」 「君がものすごい言葉で罵ってくれて……僕はすごく嬉しいんだ」 「……はい?」  そう、楓の口から「顔も見たくない」と言われたのはこれが初めてだった。  いつもは「気持ち悪い」だの「キショい」だの「無理」だの言われていたけれど、もうワンランク上の「顔も見たくない」をいただいてしまった。  これほど幸せなことはあろうか。 「もっと……もっと言ってくれないか、楓」 「………」 「君からの『顔も見たくない』がこんなにも気持ちいいものだったなんて……知らなかった。ゾクゾクした。本気でゾクゾクした」  どうしたんだろう、ものすごく興奮している自分がいる。  罵詈雑言でこんなにも身体が震えるなんて。  これが世に言う「Mの悦び」というものなのだろうか。 「……ひっく」  ああ、楓の顔が引きつってる。ピクピク痙攣してる。可愛いよ、楓。ドン引きする姿も最高だ。 「楓、もっと言ってくれ! もっと! もっと! リピート アフター ミー!!!!」 「ぎゃああああ! 近寄るな! 消えろ!」  我が愛しの楓。  今日も君の罵詈雑言が耳に心地いい。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!