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 リクの体が愛おしい。その肌は瑞々しくて、まるで熟した果物のよう。肌理が細かく、滑らかで美しい。  三年ぶりの再会は、私たちに当時の気持ちを思い出させた。大好きで、いつも一緒にいたいと思っていた、あの頃。  愛し合う時間は、別れていた時間を一気に埋めてくれた。私…本当にリクが好きで、大好きで。付き合っているときには嫌なこともあったけれどもずっと…またこうできるのを待っていた。  重ね合い、絡め合う指。その指を絡めたまま鼻に持っていくと、微かにフルーティで甘酸っぱい匂いを感じた。 「ねぇ、この香り、何?」 「ん?どれ」 「これ。この香り。指、嗅いでみて?」  リクは手を解くと、自分の鼻先に指を持っていき、嗅いだ。 「あ、これ林檎だよ」 「林檎?」 「うん、昨日ばあちゃんちから林檎届いてさ。凪にもあげようと思って持ってきた。後で食お?」 「林檎ってそんなに香り強かったっけ?」 「意外と強いよ?ダンボール開けたらふわって林檎の匂い広がったから」 「へぇ」 「信じてないだろ?」  そう言うとリクは自分の指をもう一度嗅いだ。 「ばあちゃん家の林檎、甘くて美味いんだよな」 「毎年送ってくるの?」 「うん。凪ん家にも毎年母さんがお裾分けしてたはずだよ」  そうだっけ?と記憶を辿る。秋…この時期に、毎年?リクが引っ越した頃まで? 「凪ん家にさ、引越しの挨拶行くときも林檎、持ってったよ」 「ふぅん」 「母さんから美味そうなのを選んで、って言われて、オレが選んで持ってったんだよなぁ」 「…そうだっけ?」 「覚えてないの?薄情だなぁ」  リクの手が私の指に伸びる。口元に持っていかれ、吸われる指先。 「引っ越して来たのって、リクが五年生のときだっけ?」 「そうそう。五年生だったな、あのときは」  そう言うとリクは、さらに私の指先を強く吸うと、もう一度自分の指と絡めた。 「あの頃はさ、凪が大人に見えたなぁ…」 「どういう意味?」 「凪、高校生だったじゃん?小学生男子に高校生なんてさ、もう遠い存在よ」 「そう?」 「そうだよ。髪長いし女っぽくてさ。子どもながらにドキドキしたんだよなぁ…凪に挨拶するときはいつも緊張してた」 「うっそ」 「ほんとだって。オレの初恋、凪だから」 「また調子のいいこと言って…」  リクは手を解くと、今度は私の指を自分で鼻先に持っていき、嗅いだ。 「凪の手に林檎の匂い、移った」 「ほんと?」 「うん、嗅いでみ?」 自分の鼻先に、指をつけて嗅いでみる。何度か嗅いでみると、なんとなく…ほのかに甘酸っぱい、林檎の香りがしたような、気がした。
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