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リクと初めて会ったのは、私が17歳、リクが11歳の時だった。秋、という中途半端な時期に隣家に引っ越しがあって。リクはその家の一人息子だった。リクは私の弟、海人と同じ五年生で、海人のクラスに転入した。
リクと海人はすぐに仲良くなった。しょっちゅう互いの家を行き来しては一緒に宿題をやり、ゲームに興じ、漫画雑誌を読みふけっていた。
土日は朝から晩まで公園でボールを追いかけて走り回り、中学に入ると2人ともバスケ部に入った。試験勉強も夏休みの宿題も、いつも2人一緒にやっていた。
私にとってリクは、弟と同じ年の男の子。背が低くやせっぽちで、目ばかりくりくりと大きくて。私と会うといつも元気良く挨拶してくれたけど、それくらいの存在だった。
リクと海人の付き合いは、中学卒業まで続いた。中学三年の夏休み明け、始業式の日の夕飯のときに、海人が元気なく言った。
「リクさ、引っ越すんだって」
「引っ越す?どこに?」
「隣の県」
「なんで?おじさんの転勤?」
「うん、中学卒業したら引越しだって」
「じゃあ一緒の高校…受けられないの?」
「うん。引越し先の高校受験するって」
「そっか…残念だね…」
リクの父親は数年ごとに転勤していて、なかなか一箇所に落ち着けない、とおばさんが母にこぼしていたのを思い出した。
海人は両親に、リクと同じ高校を受験したいと訴えたけれど反対され、担任の先生からも説得されて泣く泣く諦めた。
転勤じゃ仕方ないよ。同じ大学を受ければいいじゃない?そう慰めたけど、それがその場しのぎなのは、私が一番わかってた。
引越しの日、家族で挨拶に来てくれたリクに、海人は今にも泣きそうな顔で手を振った。母は、リクの母親と仲が良かったから、やはり寂しそうだった。
高校の三年間は、海人からリクの話を聞くことはほとんどなかった。私は社会人になり、海人とは生活時間帯がまったく合わなくなって、弟と顔を合わさない日が続いた。
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