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3
リクとの再会は、思わぬときにやってきた。春先とはいえどもまだ肌寒く、窓外の桜の木にようやく蕾が膨らみ始めた頃だった。
「痛っつ…」
生理2日目。生理痛に加えてひどい眠気と腰痛、気だるさ。仕事を休むことに決めて会社に連絡し、パートに出かける母を見送って布団に潜り込んだ。家には私1人…。
ベッドで丸くなり、新しくお湯を入れ替えた湯たんぽを腰に当てる。ああ…今月、結構辛いなぁ…。
そんなことを思いながら、先月別れた彼のことを思い出し、生理が来たことに心から感謝した。別れた彼は避妊がいい加減な人で、私はいつもセックスを楽しめず、生理予定日の前後は無事に生理が来るかどうか、気が気ではなかった。
「ん…」
何度目かのまどろみから目が覚めた。重い瞼をなんとか薄く開けたときに、誰かが顔を覗き込んでいることに気がついた。
「え…?」
「凪ちゃん、久しぶり」
にっ、と笑ったときに見えた綺麗な歯並びの白い歯。ブリーチした髪…大人びた輪郭の割には、いたずらそうな輝きを放つ瞳に、思わず記憶を探った。
「リ…ク?」
「久しぶり。どしたの?風邪?」
「あ、うん。いや…え?なんで?なんで?」
ぼんやりとした頭をフル回転させる。目の前にいるのは、引っ越しの挨拶にきて以来のリク…の、成長した姿。
「春から海人と同じ大学通うんだ。で、今日は久しぶりに遊びにきた」
「え…大学?」
「うん。ね、海人にさ、部屋行って漫画取ってきてって言われたんだけど、部屋変えたんだね?」
あ…そうだ、海人と私が部屋を交換したの、海人が高校2年生の時だから…リクが知らなくて、当然。
「あいつの部屋、前の凪ちゃんの部屋?」
「うん」
「ありがと。じゃ、お大事に」
そう言って部屋を出ていくリクの後ろ姿は、あの頃と違っていた。少年から…青年になっていた。
高い背。広くなった肩幅に、がっしりとした首。逞しそうな二の腕…高校でバスケ、続けたのかな?
リクが海人と同じ大学なんて知らなかったから、その日の夜、海人を質問攻めにした。
「リクとはさ。ずっとLINEで連絡取り合っててさ、同じ大学受験しようぜ、ってなってさ」
「そうなんだ」
海人は、手にしていたスマホから目を上げて私に言った。
「リクさ、すげぇ驚いてたよ?」
「え?なんで?」
「姉ちゃんが綺麗になったって」
「へぇ…」
「だから言っといた。今も昔もクソ姉貴だよって」
「何よそれ!」
「二人ともいい加減にして?晩御飯にするからほら、お箸並べて」
姉弟の他愛ない口喧嘩に、母が口を挟む。
「リクちゃん、大きくなったわねぇ?今度夕飯食べにおいでって言っといてよ」
「あ、来週末泊まりに来いって言っちゃった」
「え!来週末?」
「なんかあった?」
「お父さんの会社の社員旅行の日なのよね。お母さん、一緒に行く予定なのよ」
「えー、マジかよ」
「泊まるのは別にいいけど、ご飯はどっかで食べてきなさいね?」
「リクさぁ、母さんのマカロニサラダすげえ楽しみにしてんだぜ?」
「あら、じゃあそれだけは作っとくから朝ごはんのときに食べたら?」
「マジで?やった!」
そんな会話を聞きながら、夕飯を食べはじめた。来週末…リク、泊まりに来るんだ…。
小学校のときのリクは、まだまだ子ども、という感じだった。決して気弱ではなかったのに、いつも海人の後ろにくっついてた気がする。
中学に入ると少し背が伸び、声が低くなったけど、私にとっては相変わらず弟と同じ扱いで「男」としてドキドキするような対象ではなかった。
なのに…さっきの気遣い。高くなった背、広い背中、逞しい首…それを思い出すと、リクのことをもうあの頃にように微笑ましく見れない…そんな予感があった。
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