エインヘリャルは傘を差すか?

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 東京の市ヶ谷にある日本東京基地を併設する日本司令部の敷地内には殉職した兵士や職員を弔う慰霊碑と広場があり、この日は広場のほぼ全域が白いテントで覆われていた。今日10月4日金曜日は、人類政府軍創設前に存在した国有軍である国防軍時代からの伝統で毎年この時期に行われる殉職兵士追悼式の日である。  殉職した兵士及び職員の遺族とその関係者をはじめ、統合司令官からの命を受けて来日した統合司令部の統合空軍司令官及び統合特殊軍司令官とその参謀数名や緊急時に備えてこの場を欠席した者を除く日本司令部の司令官及び参謀だけでなく、緊急時には日本司令官の助言のもとにタスクフォースの指揮権が託される高階陽生首相や内閣のまとめ役である中央大臣を経験した尾崎文歌人類政府担当大臣兼国際支援活動担当大臣といった日本政府の現内閣の一部閣僚も出席している。  あと数分で式が始まる。  僅かながら誰かと誰かの話し声が聞こえる白いテントの下で多くの出席者と共に座って待っている飛菜美は、遠くに見える慰霊碑をじっと見つめていた。しかし、数ヶ月もの間刺さったままだった心の棘とここ最近できた喉のイガイガと相まって、じっと座っていられなくなる程の身震いが身体の奥から津波のように押し寄せてきた。  やばい――飛菜美はそれを必死に抑え込もうと、右脚を両手で強く押さえると共に俯いてギュッと目を閉じた。  すまない矢沢――。  真っ暗な視界の中で、またしてもあの男性の声が響いた。  その耳慣れた声の主は、飛菜美がかつて属していた戦闘機部隊の隊長で作戦行動の際のバディでもあるターセイのタックネームこと多村隆誠中佐、いや准将である。
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