エインヘリャルは傘を差すか?

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 国歌斉唱、殉職した兵士や職員の名前読み上げ、黙祷、統合司令官からの追悼書簡や日本司令官及び首相の追悼の辞――粛々と式は滞り無く進んでいた。  「……多村隆誠准将!……加賀美宏隆中佐!……百道武人少佐!……辺見照彦准佐!……挽地春果准佐!……」  かつての仲間達の名前が二階級特進後の階級と共に読み上げられる度に、「矢沢飛菜美少佐!」としてこの中に名前が読み上げられてもおかしくはなかったのではないかと飛菜美は考えてしまった。むしろ、紹介してほしかったとも思ってしまった。  飛菜美にとって戦闘機パイロットという仕事は、人類政府軍に入隊するきっかけでもあり人生の目標そのものだった。空軍部隊が配備された基地が眺められるマンションに家族が住んでいた為、物心つく頃から飛行訓練で飛び立つ戦闘機の姿をよく目にしており、年に1回開催されていた基地開放日のイベントも欠かさず行っていた。目の前に展示されている戦闘機の姿やパイロットの雄姿を見て、まだ小さい頃の飛菜美はいつしか戦闘機パイロットという強い夢を抱くようになったのだ。  しかし、右脚切断をはじめとする身体の複数箇所の重傷によって戦闘機パイロットの資格を失った今の飛菜美は軍人として情熱を失い、いつからか軍をこのまま辞めるべきか考えるようになってしまった。多くの仲間達を失った上に戦闘機パイロットじゃなくなった私は、あの時に一緒に戦死した方がマシだった――と、悲観的な膿が頭の中で急速に膨らんでいた。  そんな考えが自身の頭の中全てを占拠しようとしている中で、飛菜美にはひとつ心の中に引っ掛かる事があったのだ。多村の「……すまない矢沢……」という最後の言葉だった。  どんなことがあろうと飛菜美を含む部隊の仲間達の事を決して褒めず、常に粗探しの如く訓練時や実戦時の悪い部分を徹底的に指摘するような自分にも他人にも厳しい冷たい性格で自身のプライベートも全く明かさなかった多村が放ったあのらしくない言葉。いったいなんだったんだろう――様々な思いで頭の中や心が混沌としていても、その言葉だけは鮮明だった。  そんな時だった。  「ここで、ご遺族から御挨拶がございます。ご遺族代表、多村志津香さま」
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