エインヘリャルは傘を差すか?

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 多村志津香さま……?――聞いた事のある名前。少しして思い出したその名前は、多村の地元である名古屋に住んでいる4歳年下の多村の妹だった。飛菜美は、白いテントの下にある慰霊碑から少し離れたマイクスタンドの方をじっと見た。  目元が多村にとても似た、初めて見る30代半ばの女性の姿があった。  細身のダークスーツの喪服を身に纏いマイクの前に立つ多村志津香は、目の前にいる出席者に一礼すると、小さく折り畳んだ原稿用紙を開いて話し始めた。  「殉職兵士の遺族を代表しまして、一言ご挨拶を申し上げます。本日は、殉職兵士追悼式を執り行っていただき、厚く御礼を申し上げます……」  志津香は話し続けた。出席者は皆、じっと志津香を見て耳を傾けていた。  「……ある日突然、大切な家族を失うという悲しみは、どんな言葉を使ってもそれを表現する事は出来ません。しかしながら、人類政府軍アジア太平洋軍の兵士として様々な災害や有事から一般市民を守る使命を全うし殉職していった家族の事を私達遺族は強く誇りに思っております……私の家族の話になりますが、私の兄は特殊軍の空軍部隊に所属する戦闘機パイロットでした……」  多村の事だと、飛菜美は思った。  「……いつ何処に出現するかわからない巨大怪獣の駆逐という使命を課せられた兄は、共に戦う仲間に厳しく、それ以上に自分に対しても厳しく、職務に向き合っておりました……」
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