エインヘリャルは傘を差すか?

9/10

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 多村が「……すまない矢沢……」と言った理由を、なんとなくだが飛菜美は理解出来たような気がした。  部下に厳しく、それ以上に自分に厳しく、怪獣を駆逐し一般市民を守り使命を全うし、誰も死なす事無く帰還する、そんな困難なミッションを常に完遂すべく日々精進する――冷たい性格だが誰よりもプロ意識を持つ戦闘機パイロットだったからこそ、そんな言葉を飛菜美ら仲間達に漏らしたのかもしれない。ミッションを完遂させる事が出来ず、自ら掲げた目標と約束を守れないと悟った自分が許せなかったのだ。  どれだけ上手く戦闘機を操縦しても、どれだけ正確に攻撃を命中させても、どれだけ仲間と良い連携を取れたとしても、多村は褒める事を一切せずに悪い所を粗探しして指摘していたのは、裏を返せば戦闘機パイロットとしての部下への信頼の証だったのかもしれない。  あくまで飛菜美が今思った事ではあるが――。  しばらくの沈黙が流れていたが、志津香は呼吸を整えつつ再び話し始めた。  「……すいません……本日はこのような追悼式を執り行っていただきました事に、改めて感謝と御礼を申し上げます……ありがとうございました……」  志津香は出席者に深く頭を下げ、席へと戻っていった。  出席者全員が立ち上がり、目を瞑り黙祷をした。  雨の音が激しくなる中で、それを軽々と上回る雷ではない大きな音が、雨空に向かって3回鳴り響いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加