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「止せよ、汚い!」 「汚いもんか。それ見ろ!」と池尾が某グラビアアイドルの写真が載った紙面を啓介に向けると、啓介は池尾の側の左膝頭に左手を突いて紙面を覗き込んで呟いた。 「成程、掃き溜めに鶴だ」 「鶴?白鶴の広告じゃないよ。これだよ!」と池尾が言ってグラビアアイドルを指差すと、啓介は膝頭に突いていた手を思わず、ずるっと滑らせ、その拍子に首を垂れ、項垂れた儘、呟いた。 「付き合い切れん」  池尾はそのポーズの意を解せず、亦、その言葉を意に介せず、「何、項垂れてるんだ。ハハハ!もう眠くなったのか。俺は全然眠くないぞ。えーと、他にもまだ有るかもしれんぞ!」と言って他のスポーツ新聞を拾いに腰を上げた。  この池尾は学生の間では人望が厚く所謂、良い奴で通っていたのだが、啓介にとっては俗な野暮天に過ぎないのであった。  他の学生も大同小異で、ざっくばらんに言えば、俗物ばかりだった。何しろ有意義に話せる見込みがないのだ。仮に話すと、相手に気に入られるには相手の品位までレベルを落とさなければならない破目になるし、品位を保とうと落とさなければ、嫌われる破目になるから話したくないのだ。もっと言えば、品質を下げてでも利益を追求する俗人とは肌が合わないから話したくないのだ。 「人生の品質を下げぬように」このコンスタンディノス・カヴァフィスの言葉を実践しようとすると、自ずと俗人との付き合いを出来るだけ避けなければならない事態に陥るのだ。
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