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而して啓介が三十七歳で迎えた盆休みの或る晩、虚も無も知らない江藤が上下黒のアディダスのジャージ姿でいつもの通り、自称イングウェイ・マルムスティーン仕様の云十万もする自慢のストラトキャスターが入ったギターケースを携えて啓介の借家に遊びに来た。
「よお!ハンセン病者!ギターやっとるかね!」
「幾ら僕が社会から隔離された様な生活をしてるからってハンセン病者とは随分なご挨拶だなあ」
「ハハハ!ブラックジョークだ。これに文句を言うようじゃあ、洒落が分からん奴だと嫌われるぞ!」
「ああ、嫌われても構わないさ。嫌な気分にさせられる洒落を言う奴に喜んで見せて気に入られる位なら其の方がさばさばして良いからね」
「ハハハ!そんな事が言える奴は今村くらいなもんだ。じゃあ、こんなのはどうだ。よお!ミステリアスボーイ!ギターやっとるかね!」
「大の男を捕まえてボーイ呼ばわりかい!」
「そう呼びたくなる位、今村がいつまで経っても少年みたいで不可思議だって事だよ」
「へへへ、そうかい」
「ハハハ!何、喜んでるんだ。俺はなあ、今村がいつまで経ってもギターの腕前が少年の域を超えないから不思議だなって意味で言ったんだぜ!」
「そんなこと言ったって僕は江藤さんみたいに少年の頃からギターをやってた訳じゃないんだぜ!それなのにそんな事を言うなんて、こりゃ亦、随分なご挨拶だなあ」
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