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「おやつも手作りなんです。
母が小さい頃からそうしてたので。
今週は杏仁豆腐ですが、先週はプリン
でした。」
「へぇ…
料理得意なんだね。
うちのキッチンも好きに使っていいからね。
とりあえず、この冷蔵庫の中身も
運ばなきゃね。」
そう言って、宮原さんは、シンクの調理台の上に冷蔵庫の中身を並べていく。
私は慌てて、他の荷造りを始めた。
キャリーケースに当面の服と化粧品を詰め、エコバッグに食材を詰め終わった頃、宮原さんの携帯が鳴った。
「はい、宮原です。
ーーー ああ、ありがとう。
そこの向かって左手に細い路地があるだろ?
そこを入ってくると、丁度俺のマンションの
裏のアパートに出るから、そこまで来て。」
宮原さんはそう指示を出すと、
「じゃあ、俺、下でトラックを待つけど、
由里子さん、ひとりで大丈夫?」
「はい。」
私が頷くと、宮原さんは私の頭をひと撫でして、部屋を出て行った。
ひとりになると、突然、それまで感じていなかった恐怖に襲われた。
隣に守ってくれる人がいるのといないのとで、こんなに感覚が違うんだ。
宮原さんは、アパートの前にいる。
遠くに行ったわけじゃない。
何度も自分にそう言い聞かせて宮原さんが戻るのを待った。
宮原さんが戻るまでのほんの数分が、とても長く感じられた。
ひとりで待っていると余計なことを考えてしまう。
あれは誰だったんだろう。
何で私を襲ったんだろう。
何で私の家を知ってたんだろう。
考えれば考えるほど、恐怖しか生まないのに、考えるのをやめられない。
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