保護

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「由里子さん、こっち来て。」 宮原さんに呼ばれるが、近づくことも恥ずかしい。 困ったまま立ち尽くしていると、立ち上がった宮原さんが近づいてくる。 え、あ、どうしよう。 逃げ場を探すが、そんなものあるわけがない。 あっという間に手を取られて、 「さ、こっち来て。」 とソファーに連れて行かれる。 湯上がりに男性に手を握られるなんてあり得ないことをされて、もう心臓が口から飛び出しそうなほど、バクバクと大きな音を立て始める。 ソファーに並んで座らされて、またさらにドキドキする。 少しでも足を開いたら、膝が当たってしまいそうで、必死に膝を合わせて揃える。 「これ、この部屋の鍵。 明日からは、俺が送迎するつもりだけど、 一応、持ってて。 で、あと、連絡先、聞いてもいい?」 ん? 何か、今、すごくサラッと重要な情報をいくつも言われた気がするけど… 「えっと、鍵ですよね。 はい、お借りします。 ありがとうございます。」 えっと、それから… 「あ、あの、明日から送迎って…?」 「うん、だって、裏のアパートからここに 引っ越しただけじゃ、また犯人に待ち伏せ されないとも限らないでしょ? だから、明日から、俺が図書館まで 送ってく。」 「っ!! だ、ダメです。 宮原さんにもお仕事がありますし、そこまで ご迷惑をお掛けするわけには いきませんから。」 私は、慌ててお断りをする。 「大丈夫だよ。 俺、会議がある日以外は出勤時間が決まって ないんだ。 市営図書館なら、出勤時刻は10時くらい?」 「はい、そうですけど、でも!」 宮原さんは口調は優しいのに、私の話を全然聞いてくれない。というか、多分、聞く気がない。 「じゃあ、大丈夫。 丁度、店舗が開店する時刻だから、 由里子さんを送ったついでに店舗を回って くるよ。 で、帰りなんだけど、申し訳ないけど、 図書館まで迎えに行くから、俺の店舗回りに 付き合ってくれない?」 「え?」 「由里子さん、帰りにいつもうちの店寄って くれるでしょ? 俺が仕事してる間、店でのんびり本を 見てて。 由里子さんの予定で変わるのは、行く店が 日替わりで違うことくらい。 ダメかな?」 宮原さんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。 「いえ、それは全然構いませんけど。」 っていうか、寧ろ、いろんな本屋さんに行けてすごく嬉しいかも。 でも、そこまで甘えてしまっていいの?
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