お正月

7/12
前へ
/90ページ
次へ
「そうねぇ。 由里子の事を大切にしてくださる方なのは、 よく分かったわ。 宮原さんは、宮原書店にお勤めなんです よね? それって… ?」 母が窺うように尋ねる。 「はい、お察しの通りです。 宮原書店は父が代表を務める会社です。 私自身は、現在エリアマネージャーをして おります。」 宮原書店は、この辺りでは最大手の書店。 店舗数も多い優良企業。 「宮原さんが、跡を継がれるの?」 「はっきりとは申し上げられませんが、 順当に行けば、そうなる可能性が高いと 思います。」 そうなんだ… なんとなく、そうじゃないかとは思ってたけど… 「由里子は良くも悪くも普通の子です。 そんな大きな会社の社長夫人が務まるとは 思えませんが… 」 母の言葉にハッとする。 そうか。 大和さんと結婚するって事は、将来の社長夫人になるって事なんだ。 私は途端に不安になった。 「社長夫人だから、どうという事は ありません。 私も、由里子さんに特別、仕事上の何かを 求めてるわけではありませんし。 由里子さんは由里子さんのやりたい事を していただければ、私はそれを全力で応援 したいと思ってます。」 「いいの?」 私が尋ねると、大和さんは優しく微笑む。 「当たり前だろ? 仕事上の事は、社員がやれば済む話だし。 由里子は、司書を続けたいなら、続ければ いいし、家庭に入りたいならそれでもいい。 毎日、由里子の笑顔を見るのが俺の幸せ なんだから。」 どうしよう。 すごく嬉しいんだけど、すごく恥ずかしい。 できればそういう話は、両親のいない所で聞きたかったなぁ。 「とにかく、私は由里子さんなしでは 生きられません。 どうか、このまま由里子さんと一緒に生活 させてください。」 大和さんが頭を下げるので、私も「お願いします」と一緒に頭を下げた。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1613人が本棚に入れています
本棚に追加