お正月

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「そう。 由里子。 お母さん、裁判の日、こっちに来ようか?」 母が心配そうに言う。 「ううん、大丈夫。 大和さんがお休みを取ってくれて、一緒に 来てくれるから。」 大和さんだって責任ある立場なんだから、いつもいつも私に合わせて休みを取るのは大変だと思うのに、そんな素振りはおくびにも出さず私のために心を砕いてくれる。 「そう。 でも、もし何かあったらすぐに連絡 するのよ? 由里子はいくつになっても、私たちの大切な 娘なんだから。」 お母さん… 「うん。 ありがとう。」 と、ここで綺麗に終わるはずだったのに、ずっと無言だった父が口を開いた。 「由里子、お父さんたちと暮らさないか? 図書館なら向こうにもあるし、お父さんが 知り合いの市役所の人に再就職できるように 頼んでみるから。」 は!? 「お父さん!?」 今、この流れでそれはないでしょ。 「お父さん… 」 母が呆れた声で父を呼ぶ。 「いや、だって、手元に置いておいた方が 安心だろ? 離れてると今度また由里子に何かあっても すぐに駆けつけて助けてやることも できないし。」 父は母から目を逸らして言い訳をする。 「だからそれは、私たちの代わりに 宮原さんが一生、全力で守るって、昨日 言ってくれたでしょ。 はぁ……… 」 母は言った後、ため息を吐く。 「一応聞くけど、由里子はどうしたい?」 母に尋ねられて、私は一も二もなく答える。 「私はここにいたい。 仕事もようやく任せてもらえるようになって 来たし、大和さんとの生活も捨てたくない から。」 「そう言うと思ったわ。 お父さん、分かった? 潔く諦めなさい。」 パン!と母は父の背中を叩いた。 単身赴任の父を追いかけていける母も、そんな母に尻に敷かれている父も、私の理想だった。 今も、こんな何気ない会話に2人の揺るぎない絆が表れてる気がする。 いつか、私と大和さんもこんな風に思ったことを言い合える関係になれるかな。
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