出会い

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この店には、お茶を飲みながら、購入した本をゆっくり読むための喫茶スペースが設けられている。 私は、彼に連れられて、その喫茶スペースの一角に腰を下ろした。 「突然、誘ってすみませんでした。 私は、こういう者です。」 と首から下げたネームプレートの中から、名刺を取り出した。 名刺って、ジャケットの内ポケットから出てくるイメージだったけど、ジャケットを着ていないから、こんなところに入れてるのかな? なんだかそれが不思議で、思わず「ふふっ」と笑みがこぼれ、緊張もほぐれた。 「ん? 何かおかしなことあった?」 今度は、彼が不思議そうに私を見る。 「ふふっ いえ、不思議なところから名刺が出てきたな と思って… 」 私が笑うと、彼は「ああ…!」と頷いて、 「ジャケットを脱いでると、名刺入れを入れる 所がなくてね。 これ、名刺サイズだから、丁度いいんだ。」 と笑った。 名刺に目を移すと、 『宮原書店株式会社 エリアマネージャー 宮原 大和』 と記載されている。 「エリアマネージャーさん?」 それって、もしかして偉い人なんじゃ… 「くくっ そっち? できれば、肩書きじゃなくて、名前で呼んで ほしいんだけど。」 彼は屈託の無い笑顔を浮かべる。 私は慌てて、 「いえ、そういうつもりじゃ… えっと、あの、宮原(みやはら)大和(やまと)さん?」 と言い直した。 「はい。 あなたのお名前も伺っていいですか?」 彼に問われて、初めて私が名乗っていないことに気づいた。 「坪井(つぼい)由里子(ゆりこ)と申します。 名刺は…… 」 と私はバッグの中を探る。 「あっ!」 名刺より先にハンカチを見つけて慌てて取り出した。 「あの、先日はありがとうございました。」 私がハンカチの入った袋を取り出すと、宮原さんは不思議そうにその袋を眺めた。 「これ… 見覚えのある柄ですが… 」 と首を傾げるので、慌てて説明する。 「こちらで購入した折り紙です。 柄がとてもお洒落なので、2枚貼り合わせて 小袋にしてみたんです。 お菓子とか、ちょっとしたお裾分けをする 時に便利なんで何枚か作り置きしてるん です。」 それを聞いて彼は納得したように頷いた。 「そうなんですね。 これは、1年前に俺が担当した、弊社 オリジナルの折り紙なんです。 こんな風に使えるんですね。」 手作りの袋をまじまじと見られて、私はまたなんだか恥ずかしくなる。 なんとか話題を逸らそうと頭を巡らせ、名刺をまだ渡していないことに思い至った。
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