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ポピーの花畑と親子〜現在〜
今年も公園を埋めつくさんばかりに、赤い花が大地を染めていた。
その様子はまるで、幾重にも続く赤い絨毯のようでもあった。
赤い花の中心には黒い柱頭や、やくがあって、赤い花びらと共に、風に揺れていたのだった。
赤い花と遊歩道の境目には、白いペンキが塗られて、新設されたばかりであろう木製の柵が設置されており、白い線となって花畑に沿って続いていたのだったーー昔、ここに来た時は、もっとボロボロの、今にも壊れそうな柵だったのに。
そのところどころでは、赤い花を楽しむ家族や親子、携帯電話で花畑をバックにして写真を撮る恋人同士や、高価そうなカメラを構えた人々が撮影をしていたのだった。
マリーエール・アネモネーーマリーが繋いでいた手を、愛娘であるエレナ・アネモネは振り払うと、マリーの言葉も聞かず、花畑に向かって一直線に走って行ったのだった。
「エレナ。勝手に走って行っては、駄目でしょう?」
「ママ、まっかっかな、おはなだよ」
エレナはマリーの注意も聞かずに、頭の上で2つに結んだ黒髪を揺らしながら、花畑に沿ってどんどん先に進んで行ったのだった。
「エレナ、待ちなさい!」
マリーも頭の上で1つに結んだ腰近くまである金髪を靡かせながら、エレナの後を追った。
エレナを追いながらも、マリーの右手は肩掛け鞄に入ったままであったーー片手銃のグリップを握ったままであった。
ざっと確認したところ、周囲に不審な人物はいないようだった。しかし、仕事柄ーー暗殺代行業を生業としている。恨みを買ってこの場で殺される可能性もあった。
人目が多いところではされないと思われがちだが、人目が多ければ多いほど、多少、不審な行動をしても怪しまれないという利点がある。
ここで万が一、銃撃戦になったら、エレナだけでも生かさなければーー義理とはいえ、大切な娘を守らなければ。
エレナと出かける度に、マリーはそう心に誓っているのだった。
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