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今でも信じられないけど、はっきり言おう…今日はきっと厄日だ。朝起きたら、社長が実は犯罪に加担していたことがバレて会社が倒産してました!とか、混乱しながら親に電話したら、親戚の集まりの中心的な人たちが前夜祭をやっている最中大火事に遭って搬送されてることがわかりました!とか、更に追い討ちを掛けるように、婚約者が実は結婚詐欺師で別の人に訴えられて逮捕されてました!とか…なかなか普通ないよこんなの。出来ればこんなの何かの冗談だ、悪い夢だと思いたい。けれど、これは生憎現実なのだ。何がいけなかったのだろう…今日は珍しく寝坊しちゃったこと?親戚や職場の人たちの愚痴を、お酒と疲労の勢いで親にほぼ毎日話しちゃってたこと?言霊?それとも、一日一時間までって決めてた乙女ゲームを誓いを破って数時間やっちゃったこと?昨日は家事をサボったこと?何れにせよ、親は不幸に巻き込まれた親戚のことでそれどころじゃないので、幼馴染みに電話で泣きついたあと、地元のお気に入りの喫茶店でお茶してどうにか気持ちを落ち着けた。確かに今まで、付き合うことに疲れていた人たちばかりが今日一気に離れた。悪い人とはすっかり縁が切れた。これは喜んでいいんじゃないかと幼馴染みの彼女は言っていたけど…できたらもう少し穏やかな形で自分でけじめをつけたかったな。いや、そういつも思っててなかなか踏ん切りがつかなかったのも事実だけど…。 こんな日に限って、空は恨めしいほどの青空だ。本日は晴天なりってか。笑えない。トボトボと帰り道を歩いていると、先程の喫茶店のマスターの奥さんが差し入れをくれた。何らかの形で私を励ましたかったみたいだ。情けない…けど、有難いのは事実だし受け取った。渡されたビニル袋を腕に下げて、橋まで歩く。チリチリとなる鈴もどこか今日は虚しい。…お昼過ぎにここを通るの久しぶりかもしれないな。中間地点まで来ると、またあの托鉢僧さんがいた。…彼からしたら、いつもと変わらない日なんだろうな。いや、今日は少し暑いとはいえ晴れてるし、今日は彼からしたらいい日なのかもしれない。 「こんにちは、今日は晴れてよかったですね。」 けど、そんな嫌味みたいなこと関係ない彼には絶対に言えないので、普通に挨拶した。すると、お坊さんもこちらを向いて会釈をする。チリンと鈴が鳴った。 「これ、ちょっともらいすぎてしまったので。よければ好きなものを選んでください。」 今日もお布施を…と思ったけど、先程無職になってしまった私は情けないことにお金が惜しいので、もらった差し入れをお裾分けすることにした。…ごめんよ、奥さん。ごめんよ、お坊さん。中身は葡萄と筍と桃が二つずつ。ビニル袋の中身を見せると、お坊さんはじっと見つめたあと、葡萄と筍を指差した。 「葡萄と筍ですか。わかりました。どうぞ!」 私は葡萄と筍を一つずつ取り出すと、お坊さんに手渡した。桃はいらないのかな…まあ、誰にでも好き嫌いくらいあるよね。お坊さんは軽く一礼すると、鞄からまた何か差し出してきた。こ、今回は何か大きいな。彼の持っているものをよく見ると…これは、石榴の実だろうか?うわあ、食べるの初めてだこれ。 「…え?いいんですか?ありがとうございます!」 私がもらった石榴をビニル袋に入れると、いつものようにお辞儀をしてチリンと鈴を鳴らすと車道へ向いた。もう一度ありがとうございました!と告げて、私は橋を後にする。あ、でも石榴どうやって食べるか知らないな…調べよう。
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