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だが玄関を閉めた瞬間、鍵もかけず靴も履いたまま、天音は扉に押しつけられるようにして抱きしめられた。
「なぜかお前を嫌いになれない」
「……」
「悪魔になったって嫌いになれんのだ」
「…ハルヒコ」
窒息しそうなほどに強い抱擁。薄いジャージ越しの熱い身体。決して好きとは言ってくれない彼の愛情。愛とはまだ呼べない、不器用な愛情。
「だがもう二度と俺を裏切るようなことはするな」
「…ごめんね」
「しないと誓うか」
「うん」
「今になって、不義理を働いたら指を詰めてやりたいというサラの気持ちがよくわかった」
「…だったらウンコ投げられる方がマシだ」
「ウンコはそういう意味ではない」
「そう?…ごめんね」
リビングに入るとようやく電気を灯し、暖房を入れテレビをつける。まるで昔から住んでいたかのような安心感が広がり、天音はやはりこの家が好きだった。だが上着を脱ぐと早々にラグの上に押し倒され、天音は抗わずにされるがまま天井を仰ぎ服を脱がされた。
「僕たちここでしかしてないね」
「いつも2階まで待てん」
テーブル下の工具箱のかたわらには、コンドームの箱も置きっぱなしだ。だがハルヒコはそれに手を伸ばすことはなく、同じく放ってあったままの潤滑剤のみ手にすると、性急につながる準備をして深いキスをしながら天音の中に這入り込んだ。
「…なぜアイツとしたのだ」
重なったまま動かずに弱々しい声で尋ねると、彼は「興味本位」と素直に答えた。
「今後は興味本位で違う男とするなよ」
「…しない」
「アイツは…その、どうだった?」
「芳賀くんとのセックス?」
無言でこくこくとうなずく。
「うーん…ちょっとギャップがあったかな」
「ギャップ?」
「芳賀くん普段はあんなに堅そうでウブっぽいのに、全然ふつうにこなれてた」
「こ、こなれ…てゆーかアイツは男好きなのか?」
「違うとは言ってたけど…」
「アイツは危険な独裁者だ。お前のことも独占しようとして、おそらくこれからもありとあらゆる手を尽くしてくるぞ」
「これっきりって約束したよ」
「お前は男のくせに男の心理を理解しなさすぎだ」
「…大丈夫。それより動いて」
「ん?…うむ」
するとハルヒコが腰を引き、ひと息に奥まで突き上げた。急に力強く穿たれた天音は身体をびくりと震わせ、「んっ…」と細く呻き眉をひそめた。
「今日は優しくしてやる気にならん」
「え?…何…あっ、ちょっと…ハル…」
脚を深く折り曲げさせ、その上にのしかかりながら激しく突き上げる。天音はいつもと違う苦しげな声で喘ぐが、手で強く押しても彼の胸や腕は微動だにせず、されるがままで耐えるしかなかった。文句を言えないのは無論芳賀との件があるからだ。これがみそぎだというのなら、甘んじて受け入れるしかない。
ハルヒコが上体を起こし、今度は両手首を掴まれて彼の方へ引き寄せながら突かれる。天音は腰を反らせ肩をのけぞらせるが、彼は手を緩めない。溜め込んでいた怒りを身体の中で発散させるかのように、およそ天音の快楽とは程遠いやり方で、そして楽しむかのように虐めている。こんな彼は初めてだ。
「うっ・・・」
自分の好きなように動いたせいかいつもより早く絶頂が訪れ、そのまま当たり前のように中で射精をした。精子を噴き出させるたびにペニスが脈打ち、緩慢に突きながらマーキングする。ふたりともじっとりと汗をかき、天音の目元はいつのまにか滲んでいた涙で濡れていた。だが彼はいつものようにキスはせず、一旦ペニスを引き抜くと今度はその身を腹這いにさせ、まだ達した直後で硬いままのペニスを再び強引に挿入した。
「やだ…やめて」
手を床に這わせて逃れようとするが、今度はその手を背後に取られ肩をつき、身動きが取れぬまま先と変わらぬ激しさで、しかし先よりも奥深くを責められた。ハルヒコはいつもより大きな天音の声に興奮し、ペニスも萎えぬままもういちど猛り始めたのを感じた。拒否の言葉すら今は快楽の餌でしかない。細い背中にのしかかり、噛み痕がきれいに消えた首筋に歯を立てると、「痛…」と悲痛な声がする。またしても同じ場所に真っ赤な歯形を残し、それを眺めながら絶え間なく腰を動かし続けた。
「ごめんね」
涙声で再び謝るが、穿つ力が弱まることはない。だが天音は何度も途切れ途切れに「ごめんなさい」と繰り返した。最後にまた仰向けにされ、抱き合いながら2度目の射精を受け入れると、蕩けるような吐息まじりの声で「ハルヒコ、好き」とささやき、それはやわらかな毛皮のようにハルヒコの耳をくすぐった。
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