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追憶の中、いつも君がいた
中央自然公園。彼女が愛した場所。よくここに来ては読書をしたり四季折々の花を写真に収めたりしていた。特に何もせずに公園内を歩くだけのことも多かった。当時満員電車を何本も乗り継いで大学に通っていた彼女は人混みに揉まれる日々を送っており、自然の中にいるだけで感情が浄化される気がするのよ、と語っていた。
「眩しいくらいに輝いてるのよ、この公園。花も、木も、遊びに来てる人達も。学校の周りとは大違い」
そう言って幸せそうに目を細める。毎度お決まりのパターンだった。君の方が眩しいよ、と心の中でそっと呟く。これもお決まり。こんなキザなセリフを吐けば恥ずかしがり屋な彼女から強烈なキックがお見舞されるのは間違いないので絶対に口にしない。それ以前に僕の柄ではないし。けど、きっと僕の想いは伝わっている。そんな気がしていた。
彼女は、ここに二人で来る時は必ずお弁当を持ってきてくれた。慣れない包丁を使い手を傷だらけにしてまで作ってくれるお弁当は不恰好ながらとても美味しかった。心に染み渡る味がした。
初めて食べた時の感動は忘れない。おにぎりと卵焼きは崩れ、唐揚げは炭化し、タコさんウインナーはもはや脚がなくなっていて、そしてなぜか唐突に現れるきゅうりと大根のお漬物。開けたお弁当箱を速攻で閉じて彼女につねられ再オープン。明らかに漬物の匂いと汁が充満していたが、猛アタックの末に付き合えた彼女の手料理だと覚悟を決め口に放り込む。……意外と美味しかった。いや、かなり美味しかった。漬物の主張は少々激しかったがそれ以外は満足のいく味だった。彼女は先程人の腕に内出血を作ったのと同一人物とは思えない位に不安げな表情で僕を見詰めていた。美味しいよ、と言うとぱあっと眩しい笑顔になった。
今になって思えば、味よりも彼女の手作りという事実が美味しく感じさせていたのだろう。だがそんなことはどうでもいい。彼女の想いの込められた、不格好だけど美味しいお弁当。その思い出が大事なのだ。
――もう、あのお弁当を食べることは出来ないのだから。
中央自然公園には鳥や小動物と触れ合える小さな動物園のような区画も設けられており、休日には沢山の親子連れが足を運んでいた。もちろん親子以外に中高生や老人も混じっていて大混雑だった。だが対照的に平日は人がほぼいない。閑古鳥が鳴いていた。これは単なる比喩ではなく、実際にカッコウが飼育されていたのだがそれはさておき。
僕と彼女が出会ったのは五月、人がほぼ居ないこの動物園だった。
その日、僕は大学をサボって中央自然公園に訪れていた。特に何がしたかった訳でもない。何となく学校に行きたくなくて、何となく同じ市の外れにあるこの公園に来たいと思った。それだけだった。そして何の気なしに動物園の区画へやって来た。その入口で彼女を見つけた。
ストレートで艶やかな黒髪、整った顔立ち、大きな瞳、色白できめ細かな肌、春らしい淡いピンクの花柄ワンピース。色のコントラストがとても綺麗で、横顔しか見えなかったが輝かしかった。眩しい、と言う言葉が脳裏をよぎった。そして彼女から目が離せなくなった。離せなくなったことさえその時は気が付けなかった。まるで不思議な力で引き寄せられているかのように、呼吸をするのも忘れて僕は彼女を目で追い続けていた。
彼女は入口からまっすぐ進んだ突き当たりのウサギがいるスペースへ行くと隅でしゃがみ込んだ。自分の位置からは何をしているのかがよく見えない。普通に考えてウサギと触れ合っているのだろうが、それにしては動きが無さすぎるように感じた。
自分の目をこれ程も惹きつける彼女は一体何をしているのか。何を思ってあの場にいて、何のためにしゃがみこんでいるのか。
気がついたら僕の脚は動き出していて、思考が行動に追いつくよりも先に例の場所に辿り着いていた。自分の行動に自分で戸惑う。その戸惑いが彼女にも伝わったのか、それとも単に気配を感じただけなのか。それは定かではないが、今まで微動だにしなかった彼女は突如振り返った。
「……お参りですか?」
消え入るような声で呟く彼女。お参り。その言葉で初めて気がついたが、しゃがむ彼女の正面には小さな墓標と思しきものが建っていた。アイスの棒をもう少ししっかりさせたような、簡易で簡素な作り。埋葬されているウサギのものであろう名前と命日らしい日付が黒字で書き込まれている。記された日付はつい一昨日のものだった。そしてその前に、恐らく彼女によってだろう。花束が献花されていた。
僕はここにお墓参りに来た訳では無いし、お墓があることさえ知らなかった。ただ彼女に惹かれてやってきたに過ぎない。だがもしこの場でそんなことを明かそうものなら確実に不審者と認識される。警察の厄介になるのはごめんだ。
平静を装い、本当に墓標の存在を知っていたら言うであろうセリフを口にする。
「はい。ここのウサギが大好きでよく来るんですけど先日一羽亡くなったと聞きまして、それでお参りに」
声の抑揚、速さ、大きさ、それから言葉選び。できる限り自然なものになるようかつて無いくらいに脳みそをフル回転させた。背中に脂汗が滲む。脚が震えそうになるのをぐっと堪える。まるで許されざる罪でも犯しているかのようだ。今までの日常生活の中で嘘をついたことは何度もあれど、ここまで緊張感を覚えたのは後にも先にもこの時だけだった。
彼女は僕の葛藤には気が付かなかったようで、無言で横に避けた。彼女に軽く頭を下げ、墓標の前にしゃがみこむ。そして形だけ手を合せた。そして立ち上がる。そしてその場を去ろうとした時、彼女は思いもよらぬことを口にした。
「……で、本当は何しにここへ来たんですか?」
「え?」
そのまま立ち去ればよかったのに思わず振り返ると、彼女は僕に冷ややかな視線を送っていた。
「入口のところですれ違ったのを私が気づいていないとでも?」
軽蔑と不信感が交ざった、見たもの全てを凍りつかせるかのような冷たい目。
「あんまりこっちを見てくるから、気持ち悪いなって思ってたんですよ」
今更誤魔化せそうもなかった。それに、誤魔化そうにも僕の精神は限界を迎えていた。
その後のことはあまりよく覚えていない。僕はいつの間にか自宅に帰ってきていた。口の中はうっすらと鉄の味がして、右の頬と右脇腹がやけに痛んだ。後になってから奥歯が一本足りないことに気がついた。
こんな最悪な出会いだったのにも関わらず僕と彼女が付き合うことになったのは半年後。有りがち過ぎて予想がついてしまうかもしれないが一応言う。大学の講義でたまたま隣の席になり、そこから徐々に仲が進展していったのだ。とはいえ、僕の方から言葉や行動でアタックしては彼女にのらりくらりと躱され、なんなら物理的に反撃されてしまうことがほとんどだったのだが。
六月の半ばで僕らの学校は新学期になり、履修も新たに組むこととなる。当然、前学期には無かった新たな授業が入ってくることも多い。そしてその中には学部学科関係なく受ける授業もあって、彼女と再開したのはまさにそこでのことだった。
その授業は僕の学校では珍しい座席指定型。張り出された表を見て自分の席に行くと、隣の席には見覚えのある顔があった。向こうも僕に気が付いたらしく、本を読む手を止めてぎょっとする。それだけに留まらず、思い切り睨まれた。全身の筋肉を強ばらせつつ僕は席に向かい、何事も無かったかのように腰を下ろす。その瞬間僕の腕、通路とは反対側の左二の腕に鋭い痛みが走った。
「っ!?」
驚いて左を向く。彼女がボールペンで僕の腕をぶすぶす刺していた。その姿、鶏肉の皮にフォークで穴を開ける母親の如く。幸い傷はできていないが。
僕が顔を向けたことに気がつくと一枚のルーズリーフを押し付けてくる。なんなんだよ……、とそれを受け取ると、ボールペンで女子にしては雑な文字が書かれていた。
“なんでここにいるの”
なんで、と言われても座席が指定されているからとしか答えようがない。その旨を渡されたルーズリーフに書き込んで突き返す。
“最悪。話しかけないでよ変態。破ったら蹴っ飛ばす”
再び僕の元にやってきた紙には心無い言葉が書かれていた。
変態って、そりゃないよ……。まあ確かに目を奪われてそのままついて行ってしまったんだが。でもあれは僕の意思というよりは無意識での行動であって決して下心があったとかそんなんじゃ……。
心なしかあの日と同じ脇腹と頬が痛んだ気がした。
まあ、何はともあれ彼女に話しかけなければいい訳だ。幸い授業中に私語をする趣味はないし、言葉を交わす機会なんてそうそうあるはずは……。
ここまで考えて僕はふと気がついた。この授業って確か……。
「えー、初回ということでねー、授業についてのオリエンテーションをします」
いつの間にか来ていた教授の声が僕の思考を一時中断した。嫌なことを思い出しそうだったのでこれ幸いと教授に意識を向ける。
「とりあえずシラバス回すんで一枚ずつ取ってー」
時折間延びする話し方が気に触るが文句を言うわけにもいかないので我慢するしかない。若干イライラしながら僕の横にきた寂しいごま塩頭を横目にシラバスのプリントを受け取り、何となく見ないようにしつつ隣に渡す。プリントを受け取ると同時に彼女は細い指で僕の手をぱっぱと払った。何も変なことはしていないし、触れてさえいないのに。酷い。
落胆しつつシラバスに目を通す。そして見つけた。見つけてしまった。忘れていたかった、今の状況ではあまりにも残酷でリスキーな単語を。
「えー、行き渡りましたかね。じゃあ簡単にねー、説明していきますんで」
隣の彼女はこの言葉に気がついているのだろうか。そもそもシラバスに目を通しているのだろうか。仮に見ていなかったとしても直後に事実を知ってしまうのだから何も変わらないだろう。それでも、ほんの少しだけでも僕の安寧の時を持続させたいのでどうか見ないでくれと祈る。教授の説明を聞き流しながら彼女に悟られないように目だけを動かして隣を見ると、机の下でこっそりとスマホをいじっていた。今はまだ大丈夫、か……。
だが終末は突然に訪れる。
「えー、この授業ではペアワークが主となりますのでー、各自隣の人と協力して調べ物なりプレゼンなりを進めるように」
終わった。完全に詰んだ。スマホをいじっていたはずの彼女が気がついたらぽかーんとしている。これはもうやばい。正気に戻ったら特にまずい。僕は毎週この授業の度に蹴られ続けることが確定した。相手が女子とて侮ることなかれ、彼女の蹴りは相当に強い。反対に僕は所謂ヒョロガリ。命が幾つあっても足りない。ああ、彼女が筆箱を漁り始めた。取り出したのは……ウサギ。ピンク色のウサギの形をしたカッターナイフだ。なぜこのタイミングでそのような危険物を取り出すか。まさかそれで僕を刺す気か。いくらなんでも殺すのは勘弁してはくれないか。少なくともあと五十年は生きたいんだ……。
なんて脳内モノローグを展開していたら、彼女は傷害事件を起こすことなく普通にルーズリーフの隅を切り取ってなにやら書き込み渡してきた。さっきはわざわざ切り取っていなかったのに。僕ごときにルーズリーフ丸ごと一枚使うのは勿体ないというのか。そうか。
紙には一言「必要最低限の会話なら許す」とだけ書かれていた。前回同様雑な筆跡。さっきは走り書きしたからかと思ったが、ひょっとしたら元々あまり字が綺麗な方ではないのかもしれない。現に彼女もそんなに急いで書いた様子もなかった。僕の女性との交友経験は小学校で止まっており女子、特に美人はみんな字が上手だと思っていたが実際はそんなことは無いようだ。容姿と筆跡のギャップに少々ドキドキしつつ、また、必要最低限の会話なら許してくれたという事実に少なからずワクワクもしつつ「了解」とだけ紙の裏に書いて机の上を滑らし彼女に突き返す。その際たまたま互いの手が触れてしまい、彼女は一瞬身体をビクつかせたかと思うとすぐにその手を引っ込めた。カバンから除菌シートを取り出して触れた部分をゴシゴシやる様子を見つつ、僕はそこはかとなくときめいていた。
彼女の手は眩しいくらいの白い肌によく似合う滑らかで柔らかな感触だった。一瞬だけだったとはいえそれがよく伝わってきた。あの手を、あの肌をもっと触れたい。あの整った顔も、薄紅色の頬も、艶やかな唇も、きっと同じように柔らかくて滑らかで一度触れたら最後僕の全てを虜にしてしまうのだろう。ああ、触りたい。そして間近でずっと見つめていたい。
僕の視線に気がついたのか、彼女は再び身体をビクつかせ、睨みつつも僕から視線を逸らした。そんな様子さえ今の僕には愛おしく感じられる。僕にこれほどまで警戒心を持つ彼女を、どうにかして自分のものにしたい。冷たい氷のような心を溶かしたい。素の彼女に触れたい。
今ならわかる。きっと中央自然公園で僕は彼女に一目惚れしていたのだ。僕自身が自覚する前に僕の心は彼女の魅力に惹かれ、奪われ、支配されていたのだ。まるで縄で縛り付けたかのように僕の精神は彼女から離れられなくなっていた。どこまでも彼女を追いかけられる。彼女に追いつくまで何度でも立ち上がれる。彼女を僕のものにする為ならどんなに痛めつけられたって構わない。むしろその痛みさえ愛おしむことができるだろう。過程はどうだっていい。彼女を僕色に染めたい。彼女の輝きは僕一人だけが享受したい。
認めよう。僕は変態だ。その不名誉な呼び名でさえも甘んじて受け入れられるくらいには、僕はマゾで物狂いなのだった。
さて、ここから僕の猛アプローチ劇が始まった。とはいえまともな女性経験はゼロに等しい。故に何をすればいいのかわからない。前みたいに実際に追いかけて惹く前に引かれてしまっても元も子も無いため下手なことは出来ず、ストーキング行為などは僕のモラルに反するので結果週に一回九十分間だけのペアワークでの会話を充実させることに心血を注ぐことにした。そこからどうにかこうにか発展させて事務的な内容だけでなくプライベートな会話をするまでの仲になることを当初の目標だった。そのために、僕は女性が興味を持つであろう話題を初回のペアワークまでに片っ端から調べ尽くし、暗記した。女子の会話の王道ともいうべき人気アイドルや俳優の概要は勿論のこと、流行りのスイーツや綺麗な写真が撮れるスポットのことも調べつくした。彼女がどんなことに興味を持っていても話を広げられるように。
そして当日。この日の課題は僕らの学校が位置する市についての、二週間後のプレゼンのための調べものだった。一度出欠を取った後は校内であればどこへ行っても構わないというのが今回の授業の条件だ。作業を進める場所は人が少ないことで評判の図書館にしようと前回の最後に決めてあった。というか、半ば無理やり決められた。理由が「周りを気にせず蹴れるから」なのが悲しいところである。
「あーあ、なんでこんな人でなしとこんなことしなきゃいけないのよ」
図書館の閲覧室にて、彼女は不機嫌そうに呟いた。そういう授業だからだよ、と言おうとしたがあまりに険しい表情なのでやめた。ついでに何やら酷い物言いが聞こえたが僕に突っ込む権利はないのでそれもスルーしておく。僕を人と見なしていないらしい彼女は眉間にしわを寄せて「そもそも私の専攻は日本文学なのに」と続けた。
この授業は必修の教養科目で、専攻外の科目は勿論のこと、文系の学部なのに本格的な生物学をやらされたり、反対に理系専攻なのに古典文学を受けさせられたりと生徒にとっては憎しみしか湧かない授業編成となっている。しかも何の授業が当たるかは完全にランダム。今回のように文学部の彼女や人間科学部の僕が社会学を受けるのはまだマシな方で、酷いところだと受験で一切使いもしなかった数学を、毎回小テストありで受ける羽目になるとか。そのくせボードゲームをやるだけの授業もあるとかで、その理不尽さと不公平さから悪名高い科目なのだ。
その名を聞くだけで強い嫌悪感、人によっては動悸や吐き気さえ覚えるというこの授業を、よりによって僕と受けることになった彼女には同情する。が、彼女と親密な仲になりたいと思っている僕にはかなり好都合だった。
「まあ、単位落とすのだけは嫌だし真面目にやるしかないか……」
はあっ、とため息を吐いてから頬杖をつきつつ僕を見る。その目からはある種の諦めが感じられた。
「で、テーマはどうするの?」
何か考えてあるわよねと言わんばかりの高圧的な態度。ここで考えてないと答えたらただでさえ低い僕の株をさらに下げることになるのは明白。これは非常にまずい状況だ。何故まずいか。何も考えていなかったからである。間に挟む雑談の内容を充実させようとしたばかりに、肝心なことに頭が回らなかったのだ。登校途中にそのことに気がつき、しかし特に何も浮かばず、授業中に二人で決めればいいかと思っていた僕が馬鹿だった。
「まさか、何も考えていないとか言わないわよね?」
そのまさかであるとは口が裂けても言えない。話を逸らすためこちらをじっと見てくる相手に何を考えてきたのか尋ねると、「そっちが答えたら言う」と返されてしまった。絶体絶命。せめて時間稼ぎをしなければ……。
「ところで、八月に公開する恋愛映画のキャストが過去最高に豪華らしいよね」
「は?」
「なんでもないですごめんなさい」
悪足掻きしたらドスの効いた声が返ってきた。ついでに脛を蹴られた。多分アザができた。そう言えば、必要最低限のこと以外を話したら蹴られるんだったな……。
彼女の目つきは一気に鋭さを増す。例えるなら、獲物を狩る直前の鷹のそれ。恐怖以外なにものでもない。
「えっと……自然、とかはどうでしょう……」
このまま何も答えなければ命を失いかねないと適当に頭に浮かんだ単語を口にした。こんなにもあやふやで具体性も計画性も皆無な発言に彼女はどう思うだろうか。あのまま口を閉ざしていれば物理的に痛い目を見ていたのは確実だが、今の突拍子もない、案とさえいえない様なものを聞いて彼女はどんな反応をするか。答えは簡単。蹴られる上にキレられる。惚れた相手だし彼女から与えられる痛みさえも愛しいのは間違いないが、できるだけ早くお近づきになりたい身としては避けたい事案である。
ああ、彼女は鋭かった目を丸くして、一週間前に見たのと同じキョトンとした表情になった。これはもう制裁確定に違いない。すぐに阿修羅のような形相に変化して高威力のキックが飛んでくるのだろう。なんならパンチも追加されるかもしれない。
やってしまった……。というか、どの選択肢でも好感度下がって且つペナルティ有りってどんだけ攻略難易度高いんだ。これがスマホゲームなら即大炎上だよ……。
などと現実逃避も兼ねた独り言を脳内で展開しつつ脚に激痛が走るのを待ったが、いつになってもそうなる気配はない。頭の中にはてなマークが浮かんだとき、彼女がぽつりと「一緒だ」と呟いた。
「中央自然公園について調べようと思ってたから……」
この言葉を聞いた瞬間、奇跡というものは本当に起こり得るのだと実感した。じゃあそれにしよう、と僕が言うと、彼女はちょっと待てと言う。
「その前に、私に何か言うことがあるんじゃないの?」
中央自然公園に関して、と僕を真顔でじっと見つめる彼女。全てを悟る僕。今ならあなたのことを人と見なしてあげてもいいけど、という言葉を聞き終わる前に僕はその場で陳謝した。
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