零。

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零。

(はあ。気が重いぜ……一体全体、なんで俺が(かなめ)の『嫌いなところ』を探さなきゃいけないんだ!?)  今朝も要と一緒に出勤した。  いつもと変わらない朝だ。  朝礼が終わった今は、それぞれのデスクで仕事をしている。 (因みに俺は――要観察(かなめかんさつ)中……否、昨日の終業後から今朝までに届いたメールの確認中である。それが済んだら、経理関連の書類に目を通し、稟議書の類をやっつけて――合間には、要観察(かなめかんさつ))  自然に寄ってしまう眉間の皺――渋々といった(てい)で要のあら(・・)を探している(わたる)の溜息は、二桁を優に越している。 (はぁ――……) 「社長。お疲れですか? 元気がありませんね。午後から新規への同行、宜しくお願い致します」  元気にはきはきと喋る彼は、今年度、自分の母校から採用した新卒だ。  我社を希望する学生がいて、新卒社員として採用できるようになった――そんな些細な出来事を、約一年前には要と共に喜び合った。感慨深い。  学生時代にサークル感覚で始めた会社だったが、何となく時代の潮流に乗れたようで、細々とではあるが業績は上がってきている。 「ああ。先方の資料は昨日読み込んであるが、担当者やその上司の情報をもう少し詳しく教えてくれないか?」 「はい! ――」  入社後、初めて彼が自分で掴んできた新規取引予定先だ。俺もしっかりバックアップして、なんとか大きな契約に結び付けてやりたい。  時折、要からの俺観察視線(・・・・・)を感じることはあったが、基本的に俺は要が好きなのだからそういった視線に嫌な感情を持つことは皆無である。寧ろ要に見られているという事実は、公私に渡って俺のやる気スイッチを燃え上がらせるのだ。どれだけ俺が要を愛しているのかと聞かれれば、世界一、宇宙一、正々堂々と答えることが出来る。  ――そうこうしているうちに、俺は、すっかりと自分のミッション(要観察(かなめかんさつ))を忘れることに成功し、溜息を吐くこともなくなっていた。
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