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肆 。
「よし! 発表しよう」
あっという間に一週間が経った。比較的ロングスリーパー傾向にある要だが、明日は休みであることや少しの興奮とが混ざり合い、いつになく元気な晩だ。
「ああ。言い出しっぺのお前から、俺の嫌いなところを言ってくれないか?」
「あ。ああ……。よし、わかった」
要のしどろもどろな態度が気にはなったが、何を言われても真摯に受け止めようと俺は覚悟を決めている。心臓が早鐘を打ち始めたが、冷静に、一言一句漏らさず話を聞くつもりだ。
「わ、わたるは――格好が良すぎる!」
「はあ?」
「だ、か、らッ!」
「……」
「格好が良すぎるから、モテるだろ? それが心配なんだよ! だから! 格好良すぎるところが嫌いなんだ」
困った。正直、どう反応していいのか皆目見当がつかない。頬や耳朶が真っ赤に染まっている要の表情から、それが嫌いな理由には聞こえない。
「――こういう場合は、ありがとうと言えば良いのか?」
「はあ? 僕は嫌いだって言ってるのに、ありがとうはないだろ? それに、まだあるぞ!」
「そうか、すまない。じゃあ、次は何だ?」
「お前は、 優しすぎる! 頑張りすぎる! 頭が良すぎる。まあ、頭が良すぎる点は、嫌いじゃない。むしろ尊敬してる、か……」
必死に喋り続ける要の目が潤んできた。何故、優しかったり、頑張ることが嫌いなのだろう?
「お前が、自分を犠牲にしてまで部下をフォローしたり僕をフォローしたり、人より長く働いて、何でもない涼しい顔で頑張ったりしているとスゲー心配だ。だから、そんなところが嫌いなんだよ!」
こいつの嫌いは、心配や危惧。要するに、俺を気遣っていることの裏返しなのだろう。
「他には?」
「……それだけだよ!」
ふいっと、そっぽを向いて要が答える。
「じゃあ、俺の番だな」
途端に、要が緊張した。少し背筋を伸ばし、判決を待つ被告人のような表情をしている。
「先ず、言っておくことがある。俺は、要のどこも嫌いじゃない」
「それじゃ……」
「まあ聞け。とにかく嫌いなところは見つけられなかったが、発想を転換し、改善した方が良さそうな点をいくつか考えてみたんだ」
「それでも良ければ」と言うと、要は「聞かせて欲しい」と答えた。俺は、できるだけ感情を排除して事務的に――それらを要に伝えることにした。
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