壱。

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壱。

わたる()ー! ちょっと、相談なんだけど――」  昨晩の出来事だ。  (かなめ)が、俺に相談だと言って持ち掛けてきた内容が『互いの嫌いなところ』を探して、一週間後に『それを発表して、理由を話し合おう』というものだった。 「なんだ? お前は、俺に不満があるのか? だったら、今ここでそれを解決すればいいじゃないか……」  俺は要になんの不満も無いが、要が俺に不満があるというのなら、それは由々しき問題である。早めに解決して、気持ち良く生活したいじゃないか。 「僕が、わたるに不満? ないない! お前はいつでもスゲーしな」  他意無く喋るこいつの表情は、いつも通りのほほんと穏やかだ。嘘を吐いている様子は微塵もない――益々、不可解だ。 「じゃあ、なんで『嫌いなところ』を探す必要があるんだ?」  途端に要の返答がしどろもどろになり、視線がキョロキョロと所在なく彷徨い始めた。 「えっと。ホラ! うんと……、あ、そうだ。うん。僕達、ラブラブでしょ? だからさ、ほら! えっと――」  じーっと要を凝視している俺に向かって、『わたるは頭良いんだから、分かるだろ!』と、涙目になった要が真っ赤な顔で言い放ちやがった。良く分からんが…… 「要、落ち着け。(よう)するに『嫌いなところ』を出しあい、それらを話しあって前向きに解決することで、この先より良い関係を築いて行きたいってことを言いたいんだな?」 「おおー! やっぱり、わたるは天才だ。僕は、そう言いたかったんだ……と思う」  要はホッとした表情で、取り繕うようにそう言った。  なるほど、本質はそこに無いな(・・・・・・・・・)と、俺はピンときた。まあ、暫くは騙されることにしよう。一週間後には詳らかになる筈だ、ここで悪戯に要を責めてもしょうがない。  腑には落ちなかったが、要の茶番につきあうことにした。  つくづく俺は要に甘いのだ。しかし、そんな自分が嫌いじゃないんだから仕方がない――
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