陸。(前編)

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陸。(前編)

「要。そろそろ、今回の顛末を話してくれても良い時期じゃないか?」  あれから一週間経った。明日は休みだ。ゆっくりと話を聞くのには丁度良いタイミングである。 「うん、そうだな……」 「先ずは、この一週間の余所余所しい態度について説明してもらおうか」 「あ。ああ――」    自覚はあったと見える。視線を彷徨わせ、言葉を探している様子からバツの悪さが伺えた。 「じゃあ、その前に。唐突に『嫌いなところ』を挙げようと提案した、本当の理由を教えてくれないか?」 「う。うん……実は――」  煮え切らない態度が気にはなったが、そのまま黙って待つことにした。すると、耳を真っ赤にした要がボソボソと話し出す。  「あのな、絶対に笑うなよ? 絶対だぞ!」そんな執拗な前置きの後、最近、小説の投稿をはじめたと恥ずかしそうに言う。その投稿サイトで、今回『あなたを嫌いな理由』をテーマにしたコンテストがあり、その題材が見付からなかったから、苦肉の策で俺に訊いてみた。しかし、俺の答えに(かなめ)自身が落ち込んでしまった。  ざっくり纏めるとそんな内容だ。それほど落ち込ませるような事を言った自覚が無い俺は、しばし思考を巡らせる―― 『無頓着な点だ』  それは、(かなめ)のストロングポイントであると同時に、ウィークポイントでもある――何事においても拘りが薄い分無防備になることがあるからな。  あの日。要にせっつかれた俺はそう答えていた。 「最初は、無頓着か~(・・・・・)くらいに思った。でもな、漠然としていて良く分かんなかったから、部屋に戻って言葉の意味をこっそり調べてみたんだ……」  ――すると、『細かいことなど気にかけず、物事にこだわらない』という意味だった。そういえば、服装や食べ物とか……殆ど、深く考えないで適当に生活してるよな、とか。いろいろ考えすぎて、このままじゃ航に呆れられてしまうんじゃないかと思ったら、どんどんネガティブ思考に陥ったんだよ――  (かなめ)は航の嫌いなところが見付けられなかったが、航から改善した方が良いと思われる(・・・・・・・・・・・・・)点を突きつけられてしまったことに少なからずショックを受け、なんとか改善しよう(・・・・・)と考えたら、余所余所しくなったということらしい。 「お前に、嫌われたくないからなッ!」  真っ赤な顔で開き直られてもなあ……。 「あばたもえくぼ、もしくは、Love is blind.って分かるよな? 俺はどれだけお前と長く一緒に居ても、これまでも、これからも。ずっとそんな気分だ」  自分が惚れてしまった相手であれば、あばたでさえひいき目で可愛らしいえくぼに見える。(よう)するに、恋は盲目ってわけだ。  抱き寄せ、額にかかる前髪をかき上げてそこに軽く唇で触れた。久し振りに触れる要は俺と同じシャンプーの香りがして、少し高めの体温が心地良い。そのままの格好で話を続ける――
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