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「そんな焦ることもねえだろうよ。これから嫌でもヤることになるんだから、今日は予定通り、お互い抜くだけにしとこうぜ」
「えっ? って、いうことは……」
「ま、合格ってことにしといてやる。見た目も良いし、そんだけエロけりゃ文句はねえよ」
それを聞いた俺は顔を上げ、遊隆の目を真っ直ぐに見つめて問いかけた。
「……ほんと? 俺、受かったの? ほんとに?」
「そういうことだ。こういうのは相性が大事だからな。……まぁ実際は人が足りなくて焦ってるってのもあるんだけどよ」
胸が高鳴る。熱くなった頬が緩む。頭の中が花畑状態だ。
「お、俺頑張る。できる範囲でだけど」
「おう、頑張ってくれ」
俺は両手を強く握ってガッツポーズを取った。取り敢えず当面の寝床と仕事は確保できたのだ。
それに俺は遊隆の言う通り、エロさに関してはある程度の自信があった。なにせ家では話し相手がいなかった俺だ。部屋で一人ですることと言ったら決まってる。スマホで動画を見て、時にはひどい妄想をして、毎晩自身を慰めていた。
幸か不幸か、その経験が役に立つ日がきたのだ。
「で、雪弥。お前は確か家出少年なんだよな?」
遊隆が俺のそれに手を伸ばして言った。
「住む場所はあんのか?」
「……な、ない……。だから住み込みでできる仕事をって……あっ、いずれはどっか、部屋借りて……」
遊隆の太い指で、ゆっくりとペニスが扱かれる。
「じゃあ住む場所見つかるまで、俺んちにいさせてやろうか。寮もあるけど、狭いし駅コンビニも遠いし」
「えっ……ほ、ほんと……?」
徐々に手の動きが激しくなってきた。俺は膝立ちになって遊隆の肩に手を置き、何度も左右に首を振る。
「その代わり当分は床で寝てもらうぞ」
「い、い……。全然、構わなっ……あぁっ」
あっさりと果てた俺を見て、遊隆がフンと鼻を鳴らして笑った。
「射精のタイミングも、これから勉強しろよ」
「はっ……ぁ、あ……」
それから約一時間後、ホテルを出た俺と遊隆は肩を並べ、一先ず駅の近くにあるという遊隆の家に向かった。
足取りが軽い。俺は遊隆の顔を見上げながら、いろんなことを引っ切り無しに喋った。好きな食べ物とか音楽とかを質問しまくる俺に、遊隆はいちいち笑って答えてくれた。
「仕事場って、みんな仲良いのか?」
そう質問した瞬間、ふいに遊隆の横顔が翳ったように見えたのは気のせいか。
「まぁ、ピンキリだ。殆どはいい奴だけど」
「そうなんだ。緊張するけど、楽しみだな……」
「明日、早速連れてってやるよ。そこで契約書とか書いてもらうことになる。今日はメールで雪弥の顔写真だけ送って終わり」
そう言って頷いた遊隆の顔は、もうさっきと同じ笑顔に戻っていた。
「お、着いたぞ」
やがて見えてきたアパートを指さして遊隆が言った。
「俺の部屋」
招き入れられたマンションの一室。一人暮らしにしては結構広い方だけど、どこにでもあるような若者の部屋だった。
「ここがリビング兼ダイニングな。そっちのドア開けると寝室。トイレと風呂は玄関からの廊下の途中だ」
カーテンやソファ、ベッドカバーなどは全て黒で統一されていて、それが遊隆によく似合っている。ただ床には洗濯物らしき衣服があちこちに散らばっていて、ソファ前にあるローテーブルの上にも灰皿や腕時計、コップやスマホの充電器などの細かい物が散乱していた。この部屋での俺の最初の仕事は、どうやら掃除になりそうだ。
俺はキョロキョロと室内を見回しながら遊隆に続いてソファに腰を下ろした。
「いい部屋だな。いろんな店から近いし、治安も良さそう」
「そういえば雪弥、お前の私物ってどうする?」
「ああ、大した物持ってないから別に取りに行ったりしなくていいよ」
「しばらくは俺の服貸せばいいか、でかいかもしんないけど。パンツとか歯ブラシとか、最低限の物は仕方ねえから俺が買ってやるよ」
「……ありがとう。給料もらったら自分で揃えてくから」
遊隆が煙草を咥えて、苦笑しながら言った。
「で、家出の理由ってのは、教えてもらえんのか?」
「ん」
不幸自慢をする気はないが、これから世話になる遊隆には正直に言っておかなきゃ駄目だと思った。
「昔から家族と上手くいってないんだ。そこで高校退学になって、もう居場所なくなっちゃったから」
「親と上手くいってなかったのか」
「親って言っても、本当の親じゃないよ。だからあんまり傷付いてないし」
何かある度に殴られていたことや飯をあんまり食わせてもらえてなかったことは言えなかった。言う必要もないと思った。
「ま、生きてて何もない奴の方が珍しいだろうよ。身の上を恥じる必要なんて全然ねえし、新しい人生が始まった、って思えばいい」
「いいこと言うね」
「そんなんじゃねえって。よしっ、早速飯にしようぜ」
「ん!」
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