見知らぬクラスメート

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見知らぬクラスメート

「おっはよー」 朝、マカは普通の女子高校生風に明るく元気に教室に入った。 「マカ、おはよう」 「おはようさん、マカ」 クラスメート達は笑顔でマカに声をかける。 「おはよう、マカ。今日はちょっと遅かったね」 「ミナ、おはよう。うん、実は昨日の夜、ちょっと夜更かししちゃってさあ」 親友のミナとの会話もいつものこと。 ―だが、途中で割り込んできた声があったのは、突然のことだった。 「夜更しは美容によくないよ、マカ」 「分かってはいるんだけどね~…って、えっ?」 低くも美しい男性の声に驚いて顔を上げる。 そして声のする方―自分の後ろの席を見て、マカは大きく眼を見開いた。 「えっ…?」 その男子生徒の姿を見て、マカは顔色を変えた。 柔らかな天然パーマの黒髪は少し伸びており、切れ長の眼は黒に近い青の色。 座っていても分かるほどに身長は高く、顔立ちは美形と言われるほど整っている。 一目見れば忘れられない雰囲気を持つ男子生徒は、だがマカの記憶には一切ない存在だ。 「えっと…転校生、かな?」 恐る恐るマカが聞くと、教室の中が一気に無音となった。 「えっ? なっなに?」 クラスメートの誰もが、奇妙な顔でマカを見ている。 だがその数瞬後、すぐにドッ!と笑いが響きわたった。 「どうしたのよ? マカ。新手の冗談?」 「にしてもキッツイぜ。言われた方はキツイだろう? サクヤ」 「そうだね。でもまあマカは昨日の夜は夜更かししていたと言うし、まだ寝惚けているのかもね」 柔らかな物腰と態度、明らかに普通の男子高校生とは言いづらい。 マカは困惑顔で、隣の席のミナを見る。 「マカったらぁ。1年の時から同じクラスのサクヤくんを忘れるなんて、昨日の夜、何をしてたのぉ?」 笑う顔には、どこにもおかしなところはない。 つまり、ミナはウソをついていない。 そしてクラスメート達も浮かべる笑顔から、マカを騙そうとしているワケではないことを感じ取れる。 しかしマカは思う。 昨日の放課後まで、確かに自分が一番後ろの席だったこと。 そして目の前にいるサクヤという人物に、今まで一度も出会ってはいないということを。 だがここでそれを言えば、おかしく思われるのは自分の方だということも、気づいている。 なのでここは、理由をつけて教室から出て行くしかないだろう。 マカは俯き、頭を抑えた。 「ううっ…。頭がっ、イタイっ!」 「えっ? 本当に具合が悪いの? マカ」 慌ててミナが席を立ったものだから、クラスメート達も笑うのを止めた。 「実は昨日の夜、勉強しすぎちゃったの。ラジオで英会話を聴きながら、数学の勉強をしてて…。寝る時は歴史のCDを聞いてたもんで…頭の中がゴチャゴチャなのよ」 「マカったらそんなに頑張ったのぉ? ダメだよ、そんなことしちゃぁ!」 ―正確にはパソコンを使ったインターネットゲームにハマり、夜ふかしをしてしまったのだが。 「保健室に行くぅ?」 「ううん…。悪いけど、今日は帰るわ。先生に言っておいてくれる?」 青ざめた表情で、無理やりの笑みを浮かべると、ミナは泣きそうな顔をした。 「分かったぁ…。帰るの、一人で平気?」 「家の人に迎えに来てもらうから、大丈夫。ごめんね? 後はよろしく」 そう言ってマカはカバンを持ち、立ち上がった。 不安そうな面持ちでクラスメートが見ている中、ただ一人、サクヤだけはうっすら笑みを浮かべていた。 その様子を見て、マカは確信する。 ―サクヤは自分と同じように、人の姿をしているが、人成らざるモノだと―
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