珍しい協力者

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珍しい協力者

「どうなっているんだ? 一体…」 眉間にシワを寄せるほど険しい表情で、マカは呟く。 「座敷わらしじゃあるまいし…。どこのモノなんだか…」 「あら、マカ先輩。何をぶつぶつ言っているんですか?」 廊下を歩くマカに声をかけたのは、魔女のリリス。 「リリス…」 長い銀髪に美しい深海色の瞳を持つ彼女は、見た目通りの年齢ではないことを、マカは感じ取っていた。 リリスは目的があって、マカの通う高校の2学年に転入ではなく、侵入しているのだ。 「まさか…お前の仕業か?」 「はい? 今は特に、マカ先輩の周囲では何もしていませんが?」 しかしリリスは何のことか分からぬ様子で、首を傾げる。 その様子を見て、マカはスっと眼を細めた。 「そうだな。前はよくもやってくれたな」 「昔のことは忘れましょうよ。それより何かあったんですか?」 どうやらリリスは本当に何のことか、分かっていないらしい。 いつもならマカが問い詰めればすぐに白状したが、今は疑問の色をその表情に出している。 「―屋上へ移動しよう。人気のある所では、な」 「分かりました。移動しましょう」 そして二人は始業開始の鐘の音の中、屋上へと向かった。 「私のクラスに、サクヤという男がいた。だが私はそんな男は知らない。だがクラスメートは誰もが知っている様子だった」 屋上に着くと、マカはすぐに説明を始めた。 「挙句にミナが言うには、1年の時からのクラスメートだという。ウチの高校は1年ごとにクラス替えをする為、そういうヤツなら覚えているんだが…」 「しかしマカ先輩の記憶には無い、とおっしゃるんですね」 珍しくリリスは考え込むように、頬に手を当てる。 「その生徒はいつからいるんですか?」 「今朝だ。昨日の放課後まで私の席は一番後ろだったのに、今日はその後ろにヤツがいた」 「…マカ先輩のすぐ後ろの席、ですか。明らかに狙ってのことだと思いますね」 マカは人成らざるモノの血族のモノ。 しかも次期当主という座にいる。 「私の家に用があるのか、それとも力に用があるのか知らないが、ずいぶんと回りくどいことをする」 「そうですね。…でもたった一晩で、クラスメートの方々の記憶を改ざんするとは…。ただモノではまずなさそうですね」 「だからお前を疑ったんだ、リリス」 「ヒドイ言い様ですね。まあ前科があるだけに、文句は言えませんが」 軽口を叩くものの、リリスの表情は浮かない。 「お前が思い当たる存在は?」 マカの言葉に、リリスは首を横に振って答えた。 「記憶の改ざん能力は、あまり魔女の世界では聞きませんね。魔女はあくまでも状況を生み出し、そして術を生むモノですから。マカ先輩の方は?」 「記憶の改ざんなら、私にもできるがな。だがあくまでもそれは数名のみ。一気に三十人近くの人物の記憶までは操作できない。それは他の同属達にも言えるな」 その力が大きければ大きいほど、そして複雑であれば複雑なほど、力を発揮する条件は厳しくなる。 「それなら…何か道具を使ったとは?」 「道具…。それなら有り得るかもな。だがそれに私が引っかからなかったということは…」 「マカ先輩が免疫を付けているような何かを使ったんでしょうね。普通の人間には効いて、わたしやマカ先輩のようなモノには効かない物を」 リリスの言葉を聞いて、マカは少し考え込んだ。 「かもしれないな。リリス、お前はウチのクラスメートの顔は全員覚えているか? お前に見てもらえば、何か分かるかもしれないが…」 しかしリリスは苦笑し、申し訳なさそうに首を横に振った。 「残念ですけど、まだです。マカ先輩とミナさんのことだけで…。何せまだ転校してきて、間もないですから」 「…その間もない間に、いろいろしてくれたな」 「案外マカ先輩って、執念深いんですねぇ」 「しみじみ言うなっ! こっちはどれだけの苦労をさせられ、血を流したと思っている?」 「血の方は本当に済みません。まさかマカ先輩が前線に出てくるとは思わなくて…」 「……謝るのはそっちか。まあ、良い」 確かにリリスは転校してきて間もないし、それに一学年下の2年生でもある。 「あの調子だと、他の同学年の者に聞いても同じ反応が返ってくるだろうな」 「そうじゃないと、教室の中にいられませんものねぇ」 「目的が何なのか、そしてヤツはどこのモノなのか…。はっきりしないことには、手が出しづらいな」 「そうですね。マカ先輩の他にも、何かあるかもしれませんし…。どっちにしろ、記憶の操作を止める術も探らないといけませんね」 「ヤツの能力じゃないとすると、操作している物が何かあるはず…。そんな特殊な物を扱うのは…」 マカの頭の中に、従兄のソウマの顔が浮かぶ。 「いや、でもアイツが扱う商品の中には、そんなのは無かったはずだが…」 「ではカガミに聞いてみるのはいかがです?」 「…あの人間の体を材料とした商品を置いてある、アンティークショップの店主か」 マカの顔がますます歪む。 「カガミも情報屋です。裏の事情には詳しいですよ?」 「むーん…。アイツには貸しがあるから、少し会いにくいんだが」 「でもマカ先輩が会いに行けば、大喜びしますよ。カガミ、マカ先輩を気に入っていますから」 ニコニコと笑顔で語るリリスに対し、マカはぐったりした。 「…妙なモンには好かれたくない」 「あら、カガミにはミコトがいますし」 「また新たな名前が出てきたっ! 誰だ、そいつは!」 「ミコトはカガミお抱えの職人です。カガミの店の品物は、全て彼女が作っているんですよ」 それを聞いてマカは頭を抱え、うずくまった。 「…そいつは普通の人間、なのか?」 「一応は。ですが職人歴は長いみたいですよ。腕は確かなこと、マカ先輩もその目で見たのでは?」 「ああ…見たさ。店には行ったことあるからな」 店内に所狭しと飾られた商品を思い出し、マカは青ざめる。 アレを一人の女性が作ったのかと思うと、ため息が出てしまう。 「カガミはミコトのことで頭がいっぱいみたいですし、そこら辺は大丈夫です。とりあえず行ってみませんか?」 「…だな。お前も来るのか? リリス」 「ぜひ。マカ先輩に関わることなら、他人事ではありませんから」 「頼むから他人ごとにしてくれっ!」
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