3

1/1
前へ
/12ページ
次へ

3

「残念ながら、今の職業がアタシにピッタリなんです。それに現代、闇業職人は数少なくなっていますからねぇ。カガミにはその所有と保護をしてもらっています」 確かに現代では珍しくなった闇業職人。 狙う者も少なくない。 カガミの元へいれば確かに安全だし、作った作品も高値で売れるだろう。 材料の調達の面だって、カガミならばたやすいこと。 「互いの利害が一致している、ということか」 「ええ。アタシとカガミはお互いに利用しあっているだけです。…もっともアタシが彼を裏切れば、すぐに始末されてしまいますけどね」 最後の言葉は力がなかった。 その意味を、マカは瞬時に理解する。 利益を生み出すミコトをよそに持っていかれるぐらいならば、カガミは容赦なく潰すだろうことを。 だがそれでもミコトはカガミの元へいなければならない。 闇業職人として、生きるためには―。 「死ぬまで現役が目標か?」 「はい。できれば」 「…そうか。……って、リリス。お前はさっきから何をしている?」 「はい?」 ミコトとマカの会話に全く入ってこなかったリリス。 店内の物を物色していた。 「いえ、せっかくなので、何か買っていこうかと。マカ先輩もどうですか?」 「こんな血なまぐさいのいるかーっ!」 「あ~。臭いだけは、中々消えにくいんですよね」 ミコトは苦笑しながら、商品の臭いを嗅ぐ。 普通の人間ならば気付かないだろうが、マカやリリスのようなモノには、材料の臭いがはっきりと臭っていた。 「でもキレイですよ?」 「魔女になら似合うだろうよ」 「褒め言葉として受け取っておきます」 「あっ、でも特注もお受けしますよ? 普通の材料を持ち込んでいただければ、それでお作りしますから」 「なら後で頼む。普通の物なら欲しい」 「承りました」 「お話が盛り上がっているところすみませんが、お待たせしました」 カガミが戻ってきて、メモと手紙をマカに差し出した。 「ここから少し遠いですが、こちらになります」 カガミに言われ、マカはメモに書かれた住所を見た。 「駅で二十分の所か…。今日は店は開いているのか?」 「今確認しましたが、開店しているそうです。話は通しましたので。あとその手紙は紹介状になります」 「そうか。ならコレも貸し借りということで」 マカはカバンにメモと紹介状を入れ、続いて名刺入れを取り出し、一枚をカガミに差し出した。 「私の連絡先だ。お前の要望があれば、連絡してくれ」 名刺にはマカの名前と、ケータイのナンバーにメルアドが書かれている。 「直通ですか?」 「ああ。表の人間達とはまた別の、裏の人間用の連絡先だ」 カガミは大事そうに名刺を受け取り、微笑んだ。 「これは良きものを…。ではこの名刺で、この前のマリーと今回の件を、チャラにしましょう」 「名刺一枚でか?」 マカは怪訝そうな顔をする。 「これで充分ですよ。マカさん、あなたは自分がどんなに重要視されているのか、分からないはずはないでしょう?」 「まさか売るつもりじゃないだろうな?」 カガミは慌てて首を横に振った。 「とんでもない! これは大事に取っておきます」 「…そうか。じゃあ行くか。リリス、お前はどうする?」 「わたしも行きます。ああ、カガミ。この帽子、後で家に届けてくださいな」 リリスは黒い帽子をカガミに渡した。 それは黒い糸で作られた帽子で、つばの部分が広く、麦わら帽子に似ている。 「はい、かしこまりました」 値段のことを言わないところを見ると、リリスはどうやら常連客の一人らしい。 しかし帽子を見てマカは一歩下がり、ミコトに聞いた。 「あの帽子、人毛か?」 「はい。苦労したんですよ~。アレだけの髪の長さと量、そして質が良いものって滅多にないんですから」 ひくっ、とマカの表情が歪んだ。 「…ディスプレイに飾ってあるストールは?」 「生地はそのまま絹ですけど、赤い刺繍糸の色は人間の血液です。いやぁ、あそこまで染め付けるの、大変でしたぁ」 ミコトのあっけらかんとした姿とは反対に、マカは青い顔色で額を手で押さえた。 「……そうか。ああ、ミコトにも名刺を渡しておく」 「おや、どうも。では今夜にでも携帯番号をメルアドでお知らせしますので」 「ああ、待っている。行くぞ、リリス」 「はーい。では失礼しました」 「邪魔したな」 そうして二人は店を出ていった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加