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僕がそれを見たのは十七歳の時分である。隙間の所々に雑草が生えた、小さな橋の上からである。人影の少ないその橋は、塾終わりの夜八時にはすでに幽霊が彷徨いそうな暗澹とした不気味な場所であった。
この場所が不気味な理由は他にもあった。まず、この橋を渡る先に見える神社である。長年整備されていないであろうその神社の禿げた小さな鳥居は、夜になると巨大な鬼が口を開いたように見える。
また、夕刻になると何処からともなく鴉の群れが、この上空を旋回する。鴉は乾いた声を、出し合い、夜へ逃げる。
さらにまた、この橋を渡る前にある人家の窓から、巨大な兎の人形がこちらをニヒルに覗いている。兎の人形は、その白い顔を、灰色としている。
少し遠くには人気の多い大通りがあることは知ってた。しかし車のエンジン音は何故か聞こえず、代わりに石ころにぶつかる川の音だけが聞こえた。
塾があるのは月曜日と木曜日であった。要は、その日がここを通る日であった。
自転車で通っている僕は友達と別れた後、ライトの音を鳴らしながら、夏草焦げる匂いを精一杯吸って、その橋を何ともないようにいつも走り過ぎていた。
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