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序章 無責任な優しさ
飲みかけのグラスを見つめる。
滴る水滴、透き通った氷の輝き、その脇にある陰り、一口進めるとグラスは白く曇った。
周りの談笑が心地よく耳に届く中、僕は馴染みのある酒を片手に、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいた。
「ねえ、雅樹君。猫は好き?」
嫌いではない。彼らは自分が他人にどう見られているか良く分かっている。
その上で、上手く尻尾を振りながら、まるで自由に余裕を持って生きているかの様に振る舞うのだ。
人間であれ、動物であれ、器用な生き方は尊敬に値する。
「割と好きですけど、猫アレルギーで近付けなくて。」
「私も。」
有希さんはそう言ってくすっと微笑んだ。
「好きなものほどいつも遠くに行っちゃうよね。」
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