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「吉川、集合ー」
学校での休み時間、退屈そうにその男は言った。
「おい、吉川、聞こえてんだろ。集合ー」
僕は唇を噛んだ。心の痛みに顔をしかめた。拳をぎゅっと握りしめた。
しかし、やがてふっと体から力が抜け、僕は自分の席から立ち上がる。媚びへつらうようなバカみたいな作り笑いを浮かべて、僕はその男たちの元へとぼとぼと歩いていく。
「今日もお前はむかつくなぁ」
肩にとんと手を置いて、嫌らしい笑みを浮かべて佐藤は言った。学年全体で見ても群を抜いて身長の高いそいつを筆頭に、スポーツが得意なメンバーに僕が喧嘩で勝てるはずもない。
「謝れよ」
まったくもって意味がわからなかった。どうして勝手に「集合」なんて言われて、勝手にむかつかれて、それで僕が謝らなければならないのだろうか。
「なに生意気そうな顔してんだよ、殺すぞ」
ちょっと顔をしかめると、男は僕の胸ぐらを思い切りつかんできた。僕は、佐伯という男をちらりと見て、また目の前の大男に視線を戻した。顔をうつむけ、蚊の鳴くような細い声でつぶやく。
「…………」
「あぁ?」
佐藤は僕の体を揺らす。僕は涙がこぼれそうになるのを堪える。
「……すみません」
「声がちっちゃかったから、罰ゲェム!」
佐藤は頭の悪そうな大声を張り上げて言った。すると、佐藤は僕の脚を引っ掛けて床に転ばし、その上に乗っかってきた。そこにいた数人もキャッキャと笑いながら次々と僕の上に乗っかって押しつぶそうとしてくる。肺が押しつぶされて苦しさに顔を歪めながら、僕は必死で堪えた。
「おい、佐伯も来いよ」
佐藤は言った。しかし、佐伯は鼻で笑った。
「俺は監督だよ。技術点を審査してやってるわけ」
佐伯が言うと、男たちは下品な哄笑をした。けれど、僕は佐伯だけは恐い人間だとは思わなかった。男たちが楽しそうに僕を押しつぶそうとしていると、佐伯は呆れたように言った。
「っていうか、もう飽きたよ。それに、マジで漏らしそうだからトイレ行こうぜ。技術点高すぎて、もう審査しきれねえし」
「えー、お前はノリが悪ぃな」
「うるせえ。お前らの顔面におしっこするぞ」
佐伯が言うと、男たちは笑いながらも僕の上からどき、カエルの合唱みたいな大笑いをしながら教室を出て行った。教室を出て行く直前、佐伯がちらりと僕の方を振り向いた。僕たちはほんの一瞬だけ目が合ったが、佐伯はすぐに踵を返して佐藤たちの後に付いていった。
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