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「ただいまー!」
その日は、家に帰りたくてたまらなかった。続きの話を書いて、一刻も早く小説を完成させたかったのだ。
「あら、おかえりなさい。なんだか、今日はやけに楽しそうね」
いつもはぶっきらぼうな僕が、その場で踊り出しそうな勢いで帰ってきたので、お母さんはおかしそうに苦笑する。
「何かいいことでもあったの?」
「友達ができたんだ……」と反射的に答えてから、僕は改めて言い直す。「本の話ができる友達ができたんだ。僕の書いた小説が読みたいって言ってくれた」
「あら、裕樹、小説なんて書いてるの?」
「あ」
僕はつい口を滑らしてしまい、思わず口をふさぐ。お母さんはそれを見てクスクスと笑った。
「そっか。楽しんでもらえるといいわね」
それから、僕は小説を書くことがより一層楽しくなった。始まりは誰かに見せるつもりなんてなかったけれど、「読者がいる」っていうことは、こんなにも書きがいを与えるものなのかと不思議に思った。正気を失ってしまうくらいに、心の奥から想像力が溢れ出す。
僕は四百字詰めの原稿用紙を取り出し、鉛筆で続きの話を書き始めた。あるところまで書いては、新たに思いついた設定を別の紙に書き出し、世界観を組み立てていく。最後まで書き終わったら、設定を含め、まとまったものを「本番」として書き直すつもりだった。
七月も終盤に差し掛かっていた。夏休み前に大きなテストがあり、もうテスト週間に入っていた。だけど今日だけは勉強する気にはなれず、想像力の赴くままに、僕はがむしゃらに小説を書き続けた。
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